ウタリ

□黒い男
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「どうだ?
美味いだろう」
「うん、こんなに美味しい料理初めて食べたよ」

 ティラの明るい声に主人は満足げに頷いた。
人付き合いはティラにまかせるに限る。
そう考えながら黙ったままコトレットを切り分けて口に運ぶ。
ティラは美味しいと言いながらあまり手をつけていなかった。
さっきこっそりチョコレートでも食べていたのだろうか。
 夕食は宿の一階にある食堂で食べる事にした。
なかなかの盛況ぶりで泊まり客ではない人間や
おおよそこの地域に住んでいるのだろうと推測できる人間が何人もいた。

「ガイ、これ食べていいよ」

 彼女がそう言ったのは俺が最後の一品に手をつけている時だった。
ミグ魚のフライの乗った皿をティラは差している。
珍しい、と思うと同時にふと今日の事が思い出される。

「体調悪いのか」
「ううん、そうじゃないけどデザートも食べたいじゃないか。
お腹いっぱいだと勿体ないもん」

 言うが早いかさっさと俺の皿にフライを押しつけていた。
何というか、抜け目ない。
半ば自棄になって食後酒を頼んでからミグ魚のフライを頭からかぶりついた。
香草の香りがしてヤル・エルリで食べるものよりもよっぽど美味しいだろうと容易に推測できた。
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