ウタリ

□依頼
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「そういえばさ、旦那狙われてんの?」
「旦那って言うのはやめてくれ」

 急に気を取り直したようにカゼリトは言った。
戯けた風は欠片もなく、まじめに俺の姿をとらえる。
居心地が悪くなり、割れ知らずと舌打ちしてしまう。

「だん‥‥ガイと、一緒にいた爺さん、名前はモーセだっけ?」
「モリスがどうした?」
「そ、モリス。
あの爺さんだと思うんだけど‥‥」

 カゼリトはポケットの中から一枚の紙の切れ端をとりだした。
それはどうも新聞記事の切り抜きのようで、質の悪いしわだらけの紙だった。
乱雑に切り取ってあり、メインの記事とは別に今日催された
小規模なパレードについて書かれている記事がくっついている。
それは、行進を見に行く前にラジオで聞いたニュースだった。
 デル・フォトの民家で一家が惨殺される事件があった。
一家、幼児を含む六人と男の老人の七人の遺体が発見された。
金品はとられておらず、「拷問されて殺された」ような死体であったという。
特に老人の遺体は身体がばらばらに切り刻まれ、顔なども判別不可能な程だったらしい。
その家族には離れて暮らしていた祖父が居たので、
老人の遺体はその祖父なのではないかと警察は捜査を進めている。
 今日主人に見せられた新聞と恐らく同じものだろう。
何故、こんなに近くに書かれているのに気がつかなかったのか。
ニュースでも耳にしていたのに。
デル・フォトと聞いて俺は何も思い付かなかったのか。
まずモリスの身の安全を危惧して然るべきだったのに。
 老人は恐らくモリス。
殺したのは、言うまでもなくレイだろう。
日時的にクロードはトリ・トルに入っていたと思われるし、この様な拷問の仕方はレイが好む。
家族から殺していき、俺たちの居場所を吐かそうとする。
家族を全員殺した後は、本人の指や耳などを切り落とす。
 それでも言わなかったのだ。
モリスは。
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