ウタリ

□狭間の塔
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 じっと、荒野を見据える。
 もうもうと上がる砂煙。
いくらか過去に遡れば、きっと俺にはこんな経験がいくつもあったに違いない。
荒野を走った経験も。
馬鹿正直に不利益にしかならないであろう物事につっこんでゆく経験も。
進歩がないと言われればそれまで。
永遠に繰り返す螺旋と言われればそれまで。

「給水塔が見えました。
もうすぐです」
「ああ」

 夕暮れ色の月は、錆び付いた給水塔の檻に捕まった。
柵に止まった烏が月を見張る。
ふと後ろを振り向くと
太陽の残り香のような赤みがかった橙色と空の青色を薄雲と砂塵が極限まで淡くしていた。
その極限まで淡くなった空色に錆びた柵がやけに浮いて見える。
 俺は静かに地平線を見つめていた。
給水塔の先、夜と昼の境目、空と大地の境界線に見える白くしかしくすんだ建物。
 なんと美しい情景。
哀しくなる程、空しくなる程の冷たさを兼ねそろえた美しさ。
 ティラは待っているのだろう。
 囚われの姫君のように、あの高い塔の上で。
一人、歌を歌いながら。
 魔女の声を真似れば、彼女は髪を下ろしてくれるだろうか。
魔女にばれて、茨の中へ突き落とされてしまうのだろうか。
目が潰れて、この荒野を彷徨うのだろうか。
 カゼリトが急ブレーキをかけながら直角に曲がる。

「出迎えだぜ、旦那!」

 ずらりと荒野に並んだ機械車。
物騒にもバズーカ砲ではないかと疑うような武器まである。
ザックの中から銃を取り出すとカゼリトににやりと笑う。

「カゼリト‥‥アトリグの方がいいか?」
「カゼリトでよろしく!」
「分かった。
頼んだぞ、カゼリト」
「了承!」

 エンジンを吹かして、ものすごい勢いで機械車の列につっこんでいく。
逃げるか、撃つかを悩むディヴァインの人間に粉塵を吹きかける。
爆音が響いた後、機械車は静かに止まった。

「ティラちゃん助けた後、どっかで落ち合おう」
「どっかってどこだ?」
「どこがいい?」

 問われ、しばし考える。

「ネイビス」
「了承!」

 機械車のドアを押し開けると隙間から無理矢理身体を外に出す。
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