ウタリ
□契約違反
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ゆったりと流れて行く遠くの雲達とは対照的に
鬱蒼とした木々は忙しく前からやって来ては後ろへ消えて行く。
‥‥まるで俺と周りの人間のように。
「そろそろじゃな」
この近くに公共機械車の停留所がある。
そこでモリスとは別れる事になっていた。
カゼリトに頼んだのはダル・ハークの中心地トリ・トルだが、
モリスの孫の家はダル・ハーク市内とも言い難いようなデル・フォトと言う地域だ。
中央区から向かうよりも市外から公共機械車にでも乗って行った方が数段早い。
微かな振動と共に、機械車が停止した。
「さすが」
モリスの予想に俺は感嘆の声を上げる。
ティラは素早く黒い布を頭に巻き付けた。
その直後、後部座席のドアが開きカゼリトの姿が見えた。
「ここでよかったよな?」
「そうじゃ」
モリスが肯き、座席から降りる。
俺とティラは見送りの為に機械車から降りた。
「‥‥ここで、お別れなんだね」
カゼリトに聞こえないくらいの小さな声で、ティラは呟いた。
モリスは黒い布から僅かに覗くティラの瞳をかがみ込むように、見た。
安らかな、全てを慈しむような眼で。
「いつか会える。
会いたいと思えば、きっとな」
「そんときゃ天国だったりしてな」
モリスとティラに、両の足を踏まれてしまった。