ウタリ
□契約違反
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まるで髪でもどけるような仕草で涙を拭いたティラは、少し赤く腫れた瞼のまま笑ってみせる。
「だったら、あたしの方が早くいってるかもね」
「そうかもな。
このじいさんはきっと後百年は生きるから」
「そうかものう」
呵々、とモリスは笑い、そして背を向けた。
「達者でな」
骨と皮ばかりの腕を上げて、モリスいった。
俺はポケットの中に入れた女神像をしっかりと握りしめる。
途端。
風が吹き、地面の表面を覆っていた乾いた砂を巻き上げる。
その砂は俺から視界を奪おうと眼の中に侵入する。
たまらず瞼を伏せた。
うっすらと眼を開けるとモリスの後ろ姿は手が届かぬほど遠くにあった。
「‥‥」
砂に霞んだ後ろ姿は人ではない何かを容易に連想させる。
この先を想像するには容易いが、しかし大変な苦痛を伴うだろう事も
充分に理解できた。
つまりは‥‥