ウタリ

□眠らない街
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 これで手が出なかったのは我ながら偉いと思う。
昔のモリスもそんな事をしていたがそのときは問答無用で手足が出ていた。
やはり人間年を取ると少しくらい成長するものだ。

「何が食いたい?」

 冷静に努めながらそう問いかけると、

「何でもいい」

 と言う答えが返ってきた。

「何でもいいじゃ分かんねぇだろ」
「だって、何があるかわかんないんだよ?
答えられるはずないじゃないか」
「じゃあ今の俺の体調に合わせるぞ」
「美味しい物で」

 最後にとってつけたような注文をつけられて苦笑する。
確かに俺は食べなくても一応は生きていけるので、
あまり食に関心がない事を見抜かれたように感じた。
 俺の体調に合わせるとなると骨折修復のために
不足しているカルシウムを補いつつなおかつタンパク質やビタミンなどを豊富に含む食事がいい。
そして味のよい物。
さらに言うならばあまり高級でない物。
 とりあえず目についた店という事に決めて
俺とティラは宿を出発した。

「ガイはこの街に何回来た事があるの?」

 ヤル・エルリでは見られなかった色とりどりの看板に目を奪われながらティラは聞いた。
映像が流れる看板を発見して小さく歓声を上げる。

「この街はそんなに好きじゃないからな。
十何回ってところだろう」
「好きでもないのにそんなに来てるんだ」
「俺の基準で言ったら少ないんだよ」

 好きな場所が出来ても迂闊に近寄る事が出来ない俺は顔を顰めながら言った。
ダル・ハークは好きではない。
しかし、人間や物の流れが激しいこの街は身を隠す事に関して
これ以上にない最適な街である。
それだけは確かだった。
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