ウタリ

□ありきたりなこいのうた
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 歌声が途切れ、俺は目を覚ました。
いつの間にか眠っていたようだ。
慌てて飛び起きる。

「ティラ?」

 帰ってきていたのかと思ったがどうも違うらしい。
どうやらティラの声を聞いたのは夢を見ていたかららしかった。
 ああ、何だ。
頭をかきながら溜息をつく。
別にティラの歌声が聞こえなくなったからといって、何だ。
ただの夢だというのに。
 ふと、また歌声が聞こえた。
雑音混じりの声などではない。
はっきりとした、生の声。
今度こそティラだ。
そう思って声の聞こえた窓の外を見やる。
 柵に身体を預けた後ろ姿。
いつの間にか髪を下ろしていたらしい。
肩胛骨の辺りで、
薄茶色の髪がさらさらと揺れていた。
着替えたのだろうか。
服も少女らしいピンク色のワンピースに替わっている。
よく似合うなと、心の隅で考えた。
 黄昏に染まる醜い街に歌う
彼女の元に、俺は行った。

「おい」

 後ろから声をかける。
びくりと肩が揺れて歌声が止まった。
しかし、振り返ろうとしない。

「どうした、腹でも減ったのか」

 少女の顔を覗き込んだ。
刹那、息が止まる。
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