ウタリ

□闇の追跡
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 眼で指示を出し、扉の側で待機する。
大勢が鉄板で出来た階段を上がってくる気配を感じながら、
ゆっくりと深呼吸する。
やがて、それぞれ指示を出されたように各部屋の前に二人の人間が立った。
決められた通りに、寸分の狂いもなく全てのドアノブに手をかけ、一気に扉を開ける。
 僅かな隙間が開いたその瞬間、微かに闇が覗く空間めがけて俺は発砲した。
 強烈な衝撃は、もしかしたら扉の前に立っていた誰かの腕を砕いたかも知れない。
突き抜けて、誰かの頭蓋を突き抜けたかも知れない。
 殺す事を倦厭していたのに、と舌打ちしつつティラの腕を引いて部屋の外に出ると通路から空中へ飛び出す。

「うわっ」

 ティラが声を上げ、彼女が怪我をしないようにかばいながら地面に着地する。
担ぎ上げたままの状態だったが、気にしない事にしてそのまま走り出した。
ティラの足で追いつかれるような事があれば、それこそ問題だ。

「ガイ、ちょ、降ろして!」

 声を無視しながら暗い道を走る。
足下が、爆ぜた。

「余計な真似を‥‥」

 爆ぜた足下に一瞬眼をやったがそれ以上気にせずに走り続ける。
クロードの忌々しげな声が聞こえ、けれど足をゆるめるような愚かな事はしなかった。
右腕は相変わらず使えそうにもなかったが、この状況が回復を促しているらしい。
夜明けより前に完治するだろう。

「ガイ!後ろ‥‥
じゃなくて前!」

 灰色の壁が目前に迫り、ティラが悲鳴にも似た声を上げる。
(ティラにとって進行方向は後ろ向きだった)
しかし速度を緩める事はせず、そのまま壁につっこんでゆく。
壁の一部が爆ぜ、再びティラが声を上げた。
その声に合わせるように右足で思い切り壁を蹴って
無理な方向転換をする。
しかし、曲がった先もがらくたの積み上げられた、行き止まり。

「ガイ!後ろ!」
「気にするな!」
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