ウタリ

□殺人者は誰だ
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「悪いのはお前じゃない。
欲しくもないチカラを与えられて、それが何の罪になる?
悪魔だか女神だか知らないが妙なチカラを無理矢理押しつけられて、
その上それで身体の自由まで奪われて、
よくよく考えてみればいつも、ずっと、悪いのは俺たちなんかじゃない。
だったら逃げればいい。
あいつらが間違いに気付くまで、抵抗してやればいい」

 完璧に怒りにまかせた言葉だった。
思案も何もなく、思いついたままに並べた言葉。
整理も何もされず、同じ事を何度も繰り返すような、愚かで幼稚な言葉。
 ばつが悪くなり
舌打ちしながらティラから目をそらした。
しかしそれでもまだ見つめられているような気がして、寝たふりを決め込む。
瞼をくっと伏せ、規則正しく呼吸をする。
そのうち、諦めたようなティラの声が聞こえた。
俺は安堵すると共に、嫌悪感にとらわれた。
 何故、あんな事を口走ってしまったのだろうか。
矛盾の多い、繰り言を。
まるで人が死んでしまった事を、俺の所為ではないと棚上げするようなことを。
 ティラならば、賢い彼女ならば気付くだろう。
あの言葉に詰め込まれているのは半分俺の八つ当たりの言葉で‥‥
半分が、真実だと言う事に。
真実だけれど、叶いようもない事に。
 吐き気がする程の時の流れの中で、何度こういう思いにとらわれた事か。
 泣きたくなる程の別れの中で、幾度こういう事に巻き込まれた事か。
 神の名を欲する愚かな人々に、追い回され。
 何らかの事情で追われている人間を、助けて。
 どれほど生きてもこの螺旋は変わらない。
いつまで経っても成長しない。
仮に追いかけていた誰かを説得できたとしても
その誰かは死に、また新しく追いかけてくる誰かが出てくるのだ。
 成長しないのは、俺なのか。
それとも、人間という生き物なのか。
 難しすぎるその問の答えは、
決して出る事はない。
いつまで経っても。
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