ウタリ

□白の都
2ページ/6ページ

 道路にはどんな細い路地にも白い石畳が敷かれ、
それを汚さぬ為に地下には大きな下水道が通っている。
下水道は今では珍しくも何ともないが、
千年近く昔に作られた下水道を今でも変わりなく使っているのは珍しいのではないかと思う‥‥
と言うよりも、千年も昔にそれほどの技術と財力があったという方が驚きだが。

「ねえ、あの建物は何?」

 ティラが指をさして問う。
その先には白い山に抱かれ、白い街に取り巻かれた純白の神殿があった。

「あれはここが都だった時、
トゥーラ・ギガナが住んでいた所だ」
「とぅーらぎがな?」
「この国の王様。
そんな事より宿探すぞ」

 裏をかいて大通りに面した宿に泊まるのもいいかも知れないが
目につきそうな事はやめておいた方がいいだろう。
複数宿を取り、攪乱を促すような方法もあるにはあるが如何せん金が勿体ない。
正攻法に裏道の安宿を探す事にした。
 視界が白で埋め尽くされるこの街で目印になるようなものは、はっきり言って見つからない。
壁の染みだとか、窓が他より少ないとか、
分かりにくい事極まりないような目印しか見つける事が出来ないのだった。
そしてやたらと道が入り組んでいる為に迷いやすい事この上ない。
ティラを一人歩きさせればすぐに見失うに違いない。

「ガイ、この宿屋さんよさそうだよ」

 くるりと一回転して一つの建物の前で止まった。
何の変哲もない、ただの家。

「ほら看板」

 そう言ってティラは上を見る。
視線をたどるようにして俺も見上げると、そこには確かに看板があった。
古ぼけて文字も何もかもがはげ落ち掠れ、店の名前も、
何屋なのかも判別不可能になってしまっている木製の看板。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ