ウタリ

□白の都
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 白と青以外の色彩を久しぶりに見たような気がしてなぜだか安心した。

「宿なのか疑わしい。
むしろまだやっているのかすら疑わしい」
「こんにちわ!」

 俺の言葉を無視してティラは店の中へ入っていく。
大きく舌打ちして、しかしそれだけではまだ足りず
大仰に溜息をついてから後を追った。
 漆喰の壁に重みのある木製の床。
いつの時代なのか忘れてしまいそうな雰囲気に甘い幻影を思い出す。
懐かしい。
その言葉が喉元までせり上がってきたが、無理矢理に飲み込んだ。

「ガイ」

 ティラの呼ぶ声。
何をもたもたしているのかと少し責める様な口調。

「それで?
ここは本当に宿で
ついでにまだ続けているのか」

 何事もなかったかの様に会話を続ける。
惚けていたのを気取られないかと少し声が高くなった。
ティラはそれに気付いているのかいないのか、
こくりと頷いて、さらににっこりと笑う。

「宿泊料もやすいし、
ごはんもサービスしてくれるんだって」
「ああ、食堂も兼ねているのか」

 テーブルが多い事とすぐに厨房が見える作りに納得する。
確かに値段も手頃だった。
‥‥ただし、朝食のサービスは追加料金が必要だったが。
 白い髭の生えた主人に前料金を支払い、
宿帳に名前を記入する。
やはり偽名を記入しておいた。
主人の髭に、ふとモリスの姿を重ねかけたが
主人の目は穏やかで、モリスとは似てもにつかないなと苦笑する。
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