ウタリ

□黒い男
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 結局カゼリトの食事が終わったのは時計の長い針がぐるりと一周してからだった。
それでも舌を火傷したらしいカゼリトが水を一杯飲んでから、上の部屋に上がる。
さすがに大人の男が増えた部屋は狭いように感じられた。
ティラと俺は自分のベッドに腰掛け、カゼリトは部屋にあった椅子に座った。

「んでさあ、
ホントにこの子がミスティちゃんなワケ?」
「ティラだよ」

 肩をすくめてカゼリトは俺を見た。
説明を求めているらしい。

「訳あって偽名を使わざるを得なかった。
左手の指輪には見覚えあるだろう」
「ああ、この高そうな指輪ね」
「それが証拠としておく」

 カゼリトは完全に、とはいかぬものの得心がいったように頷いた。
ティラはなんだか不服そうな顔をして左手の指輪を眺めていた。
本人と認めてもらえないのが納得いかないようだ。

「んじゃあガイってのも偽名?」
「いいや。
あの時点で隠す必要があったのはティラだけだった」

 しかし今では俺も共に狙われている事だろう。
逃げ出したラットが一緒にいるとなれば好都合、共に捕らえて檻に入れるべきだ。
まさかあいつらも馬鹿ではないのだから。
 チョコレートを頬ばっていたティラが
カゼリトの顔を見る。

「本当にカゼリトさん?」
「疑い深いなー、オレが色男じゃ不満なの?」
「不満って言うかわかんないよ。
変わりすぎ」

 確かに髭の有無で人間はここまで変われるのかと感心してしまいたくなる変身ぶりだった。
話し方も飄々とした雰囲気も煙草の銘柄も何も違わないというのに。

「カゼリトは本名なのか?」

 ふと主人と交わした会話を思い出して聞いてみる。
守護天使の名前を持つ青年。

「本名だけどねえ、
まあファミリーネームというかなんてゆーか」
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