ウタリ
□依頼
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視界は滲んで、何の役にも立たなかった。
しかし聴覚は正常に働き、ティラの真剣な声を捕らえていた。
真っ直ぐな瞳で、カゼリトを見ているのだろう。
「協力、してもらえますか」
「‥‥何の?」
「あたし達が、生きる為の」
黒い瞳をしっかりと見据えて。しゃんと背筋を伸ばして。
見えるはずのない光景が、眼裏に浮かぶ。
儚げで、頼りない雪のような彼女はきっとそこにいない。
「訳をお話しします。
あたしがどうして偽名を使っていたのか、あたしたちがどうして逃げているのか、
何に狙われていて、何にモリスさんが殺されたのか。
全部、教えます」
生きる為に必要なのは、協力し合う事。
きっとティラはそれを知っているのだ。
きっとモリスもそれを知っていたのだ。
皆俺とは違う、生きて死ぬ人間だから。