ウタリ

□依頼
3ページ/5ページ

 視界は滲んで、何の役にも立たなかった。
しかし聴覚は正常に働き、ティラの真剣な声を捕らえていた。
真っ直ぐな瞳で、カゼリトを見ているのだろう。

「協力、してもらえますか」
「‥‥何の?」
「あたし達が、生きる為の」

 黒い瞳をしっかりと見据えて。しゃんと背筋を伸ばして。
 見えるはずのない光景が、眼裏に浮かぶ。
 儚げで、頼りない雪のような彼女はきっとそこにいない。

「訳をお話しします。
あたしがどうして偽名を使っていたのか、あたしたちがどうして逃げているのか、
何に狙われていて、何にモリスさんが殺されたのか。
全部、教えます」

 生きる為に必要なのは、協力し合う事。
 きっとティラはそれを知っているのだ。
 きっとモリスもそれを知っていたのだ。
 皆俺とは違う、生きて死ぬ人間だから。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ