ウタリ

□ナフィー
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「種、って言ってもな‥‥」

 植物と言ったら苔くらいしかない。
確かに花の咲く苔もあるが、どの苔が花の咲く苔なのか見当もつかず
俺はただぶらぶらとその辺を歩いていた。
ちなみにティラはカゼリトが来たときの為に
待機しているという事だ。
どちらが楽かは言うまでもない。
 たまにどこから入り込んだのか枯れ草が落ちていたりするが種などは付いていなかった。

「勘弁しろよ‥‥」

 思わず口から着いて出たのは明滅を始めた懐中電灯に対する不満だった。
バッテリーが少ないのか、とりあえず一応戻った方が良さそうだ。
 歩く震動に合わせて光が強まったり弱まったりする。
もう少し持つだろうと回り道をした途端
一瞬辺りが闇に閉ざされそしてすぐに光が戻った。
盛大に舌打ちして引き返す。
面倒な事になってしまった。
やはり足を踏み出す度に強まり弱まりを繰り返すのだが
光の強さが先程とは明らかに少なくなっている。
半ば駆け足になりかけた、その時だった。
 フラッシュのような強い光が瞬くと次の瞬間にはばぢんっ!と火花が上がる。
声を出すのも忘れて懐中電灯を振り落とし、ようやく辺りが完璧な闇に包まれたのだと覚った。
 この感覚。
 トリ・トルで感じた。
 背筋に悪寒が走り懐中電灯も拾わず走り出す。
 ティラが力を暴走させた、あの時と同じ「気持ち」。
嫌な予感がする。

「‥‥‥‥、!‥‥っ」

 小さな、声。
 けれど確かに悲鳴。

「ティラっ!」

 声が出る。
自分でもこんなに大きな声が出せるのかと驚きながら。
こんなに焦った声を出せるのかと驚きながら、走る。
どうか、この予感が外れていますように。
列車のデッキで見つけた時のように、あの伸びやかで美しい歌を、
歌っていてくれますように。
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