ウタリ

□狭間の塔
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 エンジンが唸り機械車が急発進した。
本部に向かって突っ込んでいく。
銃口がそちらを向いた。
 俺はジャケットから単発式回転拳銃を取り出すと
素早くまだこちらを向いている銃口に向かって発砲した。
殺す意志はない。
足を狙う。
 誰かがバズーカ砲でも撃ったのか、熱と風に襲われる。
風の勢いは凄まじく逆らう事はせずに風にながされた。
堅い地面に体を叩きつけられる。
爆風に流されゴミか何かのように地面を転がり岩に体を打ち付けてようやっと止まった。
 肋骨辺りが折れたのかもしれない鈍い痛みを振り払って身を起こす。
ザックも無事らしい。
俺の腕に何とかぶら下がっていた。
 いつかのようにここでごろりと横たわり、
緩慢と訪れるはずのない死を待ち構えている訳にはいかなかった。
死に近づく為に無駄な戦いをする訳にもいかなかった。

「ナフィー」

 巻き込まれたナフィーが俺の近くでうずくまっていた。
声をかけると意外に早く顔を上げ俺の差し伸べた手に応えて立ち上がった。
そのまま俺はナフィーを背負う。
丁度、クロードから逃げた時のように。
ダル・ハークのあの時のように。

「降ろしてください」
「そんな訳にはいかない。
人質だから」

 駆け出すとナフィーが苦しそうに声を上げたが俺は立ち止まらなかった。
迷えば、また誰かが死んでしまうような気がしたから。
 走りながら刃の欠けたナイフを取り出し、ナフィーの首にあてる。

「な」
「大丈夫だ、背を当てている。大体こうでもしないと人質らしく見えないだろう」

 建物内に足を踏み入れると焦げ臭い匂いと消毒液の匂いが混ざった、嫌な匂いがした。
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