ウタリ
□ちちおや
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歌を歌っていた女を、抱きしめる。
女性とも少女とも言い難い年頃の女。
高い位置で一つにまとめた長い髪やまだまだ未発達の胸の膨らみ、
大きくくりくりとした可愛らしいとすら思える瞳はやはり少女なのだろうとも思える。
けれど、その声。
少女特有の高く愛らしい声は、
しかしどことなく年齢にそぐわない落ち着きと、そして哀愁とを感じさせる。
雰囲気も、またしかり。
少女とも女性ともつかない、つまりはそういう女がそこにいた。
確かに、俺の腕の中に存在していた。
「ティラ、無事か?」
「ガイ」
驚いたように俺を見上げ、少し赤い目をしていたが笑って見せた。
無事だよ、と言うように。
「すまない、護ると言っておきながら」
「いいよ。こうして、来てくれたじゃないか」
「すまない‥‥」
急いでここから逃げなければならないというのに力が入らない。
もう少しだけティラの身体を抱きしめる。
無事である事を、確かめる。
「花」
「え?」
ティラはにっこりと微笑んだ。
「綺麗でしょ?
あれ、わたしの好きな花‥‥」
白く可憐な小さい花。
この少女によく似た小さい花。