ウタリ
□ちちおや
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ティラは小さな手に一輪の花を持っていた。
見れば奧の机に黒く小さな種が沢山散らばっている。
きっと自分で咲かせたのだろう。
満足そうに、得意そうに、俺に差しだしてくる。
「ああ、綺麗だ。本当に‥‥」
カツン、と高い音がした。
「お取り込み中の所わるいのだが」
漆黒の髪、漆黒の瞳。
黒い男がそこにいた。
顔に刻まれた皺は本来の年齢よりも男の姿を老けさせて見えた。
けれど、その全てを切り裂くような眼光も、全てを飲み込むような存在感も、少しも衰えてはいなかった。
「二人とも大人しくこの場にいてもらわなくては困るのだ」
クロード。
俺は忌々しげに舌打ちした。
ディヴァインとは、神を意味する単語。
この世界に、本当に神様とやらが居るとすれば金持ちから賄賂でももらっているのだ。
そうに違いない。
俺はもう一度忌々しげに舌打ちした。
神を呪って。
「飛んで火に入る夏の虫とは、よく言ったものだな」
「そこをどけ、クロード」
「お前がこの場にとどまるというのなら去ってやろう」
にらみ合い。俺はティラを離した。
代わりに、銃を取り出す。
「やるのか?お前が」
「俺たちが欲しいのは自由だ。
それ以上でも、以下でもなく」
クロードが鼻で笑う。
神に縛り付けられた人間が、自由という言葉を嘲笑する。