ウタリ

□もしも願いが叶うなら。
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 荒野に揺れる、白い花。
あまりにも儚くて俺はぞくりとした。
今にも、ティラが折れてしまいそうで。

「ガイは、
願い事を叶えてもらえるとしたら何を望む?」
「え?」

 何を望むか。
ティラの突然の問いに俺は戸惑いを隠せなかった。
戸惑ってはいたが、頭は冷静にその答えを導き出す。
俺が、長い時間生きてきたそのほとんどの時間をかけて望み続けてきた願いを。
 この忌まわしい身体の呪いを、解いてしまう事。
 女神の息子と崇められ、畏怖され。
実験鼠として扱われ。
どんな痛みや苦しみを受けようとも決してこの星は俺を逃そうとはしない。
世界から愛された男。
世界から生を望まれた男。
 それは間違いなく死に繋がるだろう。
しかし構わない。
既に俺は長く生きすぎたのだ。
いまその願いが叶うなら、何を放り出しても構わない‥‥はずだったのに。
今はそれに未練が残る。
今、この一瞬しか願いを叶えてもらえなかったとして、
それで俺はこの荒野にティラを一人取り残して死んでしまうのか。
それとも俺の悠久の人生の願いを、この先の短い少女の為だけになげうつというのか。
 難しい質問だった。

「わたしはね」

 ティラが言葉を紡ぐ。
唄うような、声で。

「わたしの願いはただ一つ。
この世界で生きる事」

 この世界で生きる事を、許してもらう事。
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