ウタリ番外編

□トリ・トル旅行記
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「ねぇ」
「はい?」
「貴方、どうしてこんな仕事してるの」

 彼の姿が、あまりに自分の無機質さとは不似合いで。
彼の笑顔が、あまりに自分の硬質さとはかけ離れていて。
気が付けば、そんな問いをこぼしていた。
 エドは首をひねってうーんと呟く。

「多分、ケビンさんがいたから」
「ケビンが?」
「ケビンさんはああ見えてとっても優しい人ですよ」
「‥‥」

 屈託もなく笑う彼。
その様子は、やはりあまりに不釣り合いで。

「それに」

 ピンク色になったハンカチを差し出しながら、エドは笑った。

「ここにいたらナフィーさんともいれるじゃないですか」

 その笑顔は、ナフィーにとって眩しすぎるものだった。
 ナフィーのいるべき場所は、もっと暗く白く無機質で、冷たく深い、痛い場所だった。
しかしこの場所はどうだろう。
溌剌と生気に満ち、鮮やかに明るく物質に溢れ、光と闇の交錯する輝かしい場所だ。
燦々と照り輝く太陽の下、ただ笑顔でいるような、しかしそれでいて空虚な。

「‥‥私と?」
「はい!オレ、ナフィーさん大好きですから!」

 その言葉に、ナフィーは目を細める。
エドはトリ・トルに相応しい人間ではない。
彼はただただ自ら輝き、虚ろな所など欠片もないのだから。
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