ウタリ

□指輪
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 質の悪い、所々へこみが見受けられる塗装のはげたドアを少し力を入れて押し開けると
廊下は薄暗い照明が一つ二つあるだけで、はがれた壁紙や合板張りの床が一層安宿を強調していた。
上品さを醸し出したいのか、
子供が絵の具をぶちまけてそのまま放って置いたような趣味の悪い絵が一枚突き当たりに飾っており、
それが余計に不気味だった。
 鉄で出来た上り下りの際に煩い音を立てる階段には
ペンキがはげたところから錆が浮いていて、ひどく腐食されて穴も空いている。
 正直なところ、ティラほどの年ごろの女が泊まるような宿ではない。
一階や地下は食堂の名を借りた酒場なのだろうし、こんなところに泊まる客もお世辞でも善い奴とは言えない。
 よほど体術に自信があるのかそれとも単に金が無いだけなのか。
何にせよ、こんな宿のある界隈には碌な人間もいない。
町を歩くのにも俺が居た方がよさそうだった。

「ガイはどんな食べ物が好き?」
「あー。米、かな‥‥」
「コメ?何それ。おいしいの?」
「この辺り言う、クム芋みたいな物だ。
それ自体に大した味はないが調理方法によっては無限の広がりがある」
「へえ‥‥」

 道を歩きながらどうでもいい会話をする。
 さらにどうでもいい事だが、ティラの話は食べ物の話題が多い。
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