ウタリ
□祈りの時
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露店街ではない市場は、それなりと言えばそれなりの賑わいだった。
やはり売り手も好き勝手に商売でき、買い手も値切りがきいて掘り出し物の多い
(偽物を掴まされる事も多いが)
無法地帯と化している露店街の方が好まれるようだ。
普通の近代的な店はヤル・エルリらしいとは言い難かったが
確かな信頼がおけるという事ではこれ以上ないと言う程だろう。
「さっきから携帯食料ばっかり買っているね」
ティラが呆れたと言いたげに俺の手元を覗き込みながら呟く。
確かに缶詰や真空食品をザックに突っ込んでいる所だった。
「お前も好きな物買っていいぞ。礼だ、奢ってやる」
「本当?やったね」
ティラに少しばかりの金を握らせてその背中を見送った。
あまりの暑さに溜め息をついてから容器に入った水を三日分、ザックに詰める。
ティラの分も一応と言えば一応持っていた。
空を見上げる。
これから一荒れしそうな雲が勢いも程々に移動しているのがありありと見て取れる。
もしかすると水は買わなくても良かったのかもしれないなどとティラの髪が揺れた方向を見た。
「ティラ、伏せろ!」