ウタリ

□女神の娘
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「お前の母親は、悪魔だったんだ」
 怯えながらそう語った父の顔もぼやけてしまうくらい昔、父親は確かに言った。
 悪魔と結婚してしまった事が恐ろしかったのか、
悪魔を母親に持かなわたしが異常な力を持っているのが恐かったのかは知らないし、
もう確認する事も出来ないけれど
とりあえず怯えていた事だけは今でもはっきりと覚えている。
それから、わたしがそれが死ぬほど嫌だったことも。
 けれどわたしはその事実
(事実だったとして、だけれど)
を誇らしいと思う。
 だってわたしは綺麗に花を咲かす事だって出来るし
ケガを治す事だって出来る。
私が苦しいのを我慢すれば、みんなの笑顔を見る事が出来る。
 きっと、母くち悪魔なくて神様だったんだ。
 そうでなければわたしがこんな素敵な歌を知っている理由にならない。
 わたしはちっとも不幸せなんかじゃなかったよ、お父さん。
 だってわたしはとっても大切な人に会う事が出来たんだもの。
 その人はとても背が高くて、話そうとしたら上を見上げなければいけなくて。
光に透けた砂色の髪は散髪してないようで伸び放題。
つり上がった目にはまる瞳は鳶色でいつも不機嫌そうに眉を寄せていた。
癖は何かあるごとに舌打ちする事。
だけど、誰よりも純粋な心を持っていて、笑うと子供みたいに可愛くなる。
 低い声で、わたしの名前を呼んでくれた。
 わたしの名前を呼んで、手の差し伸べてくれた。
 護ると、約束してくれた、あの人に。
 お父さん。
わたし、出会えたのよ。
 だからわたし、全然不幸せなんかじゃ、なかった。


「だから‥‥ね、ガイ‥‥」


 ありがとう。
 

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