お題

□離さないで、とは言えない
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 和子は家に帰る時、裏口から入る。
靴を持って部屋に入ると電気を消したまま着替えを始めた。
なるべく、家の人間に気付かれたくないのだ。
 部屋着に着替えるとスタンドの明かりだけで勉強をし、こっそりと台所にいき料理をする。
ただ料理だけは隠れては出来ない。
まとめて朝と昼の分も作るので、尚更だった。

「何だ和子、帰ってたのか」

 びくりと震える肩。
振り向けない。
まるで全身が石になったかのように。

「いつも悪いな」

 父親はいつもと同じ言葉をかけてくる。
しかし和子はいつものように何も返さない。
黙ったまま体から出ていってほしいと言う無言の訴えを続けるのだ。
いつもの通り、父親はそれに気付かないのだが。

「母さんがいつ帰ってくるか、お前聞いてないか?」
「‥‥しらない」
「そうか。何か連絡がきたら父さんに伝えてくれよ」

 それだけ言うと父親は自分の部屋に引き上げて行った。
和子は料理をすませると洗濯を始める。
 今日はいつもと少し違っていた。
鞄から白衣を取り出すと少しだけ腕に抱いて目を閉じる。
森の香りを心に染み着けてから、洗濯機に入れた。
 水は全てを洗い流してくれる。
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