短編

□名前
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私はゆっくりと目を開けた。
目の中に最初に飛び込んできたのは、ただただ白いだけの天井それからあたりを見回す、どうやら此処は病院らしい。
私はなんで病院にいるんだろ?そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
そして私はだれ?そんな疑問が浮かんできた。その時始めて自分に関する記憶が私の中に全く無いのに気付く。
私の周りには医療器具と思われるものが沢山あった。
がらっ
扉の開く音がした。
中に入って来た人間は2人。1人目は白衣に身を包んだ男性と17、8歳金髪の少年。
「×××××!」
少年が私の名前だと思われる単語を口走るが聞き取れない。
少年が白衣の男性と何かを話している。
「……樹は、美樹は本当に僕が誰か分からないの?」
少年は確認するかのようにそう言った。
私はコクンと頷いた。
「美樹ってだぁれ?」
私は少年に問う。
「君の名前だよ」
少年は優しく言った。
「わたしの・・・名前?」
私が不思議そうにつぶやくと少年が頷いた。
「貴方は……だぁれ?」
私がそう聞くと少年は何かを私の手に握らせた。
私は握った手をそーっと開いてそれを見た
「R…E・・・O…れ・・・お?」
私はそれに刻まれた文字を読む。
それは金色の小さな卵型で両側に羽根のような飾りの付いたロケットだった。
その表面に彫ったようにその文字が刻まれていた。
私はそれをギューと握りしめた。よく分からないけど何かとても大切な物のように感じられたから。
「わたしはなんで此処にいるの?」
一番気になっていたことを訊く。
しばらくの沈黙のあと白衣を着た男性が口を開いた。
「いいかい。落ち着いて聞いてほしいんだ」
男性はそうさとすように前振りをしていった。
「美樹ちゃん、君は・・・・・・大事故に巻き込まれたんだよ」
そう穏やかな口調で言った。
その時私の病室のドアが開いて、警察の服装をした男が2人入ってきた。
「あの、大恋池(おおこうち)先生でいらっしゃいますね?お話を聞かせて頂けますか」
警察らしき男の一人がそう言うと白衣の男がうなずき、その男達と出て行ってしまった。
「何で、れおくんはわたしの側に居てくれるの?」
男たちが去ってしばらくしてから私はその少年に聞いた。
すると少年は頬を赤らめこう言った。
「僕が君の事が好きだからだよ。僕らは付き合ってたんだよ。それに君は僕の婚約者だ」
私はその言葉に驚いた。そしてこの人は本当に私の事を愛してくれてるんだと思った。
「わたし、必ず思い出すから・・・」
そう誰かに言うわけでも呟く。
「わたしね、自分の事で1つ分かった事があるの」
私は少しはにかみながら言う。
「それはね・・・貴方を愛してるんだって事」
少年は明らかに驚いた顔をしていた。
でもそれは嘘。
貴方を笑顔にする為の・・・。
「記憶を無くしても思いはちゃんと残ってるんだね」
私はニコッと笑顔を作って言う。
そして彼に向かってもう一つの嘘を付く。
「あと……私の名前は『亜樹菜あきな』だよ」
そう笑って言った。
今はそう名乗らせて・・・私が全てを思い出すまで・・・。
             END

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