余命僅かな天使たち
□初めの天使の死
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―それから、数ヶ月が経った。
移植した肝臓は拒絶反応もなく順調に回復し、俺は、めでたく退院の日を迎えた。
父さんやじいちゃんは迎えに来ない。
兄ちゃんたちさえも…。
この事から俺は捨てられたんだと思った。
俺は、病室をさっさと片づけ、お世話になった看護師に挨拶をして病院を出た。
しばらく街中を歩き、寝るところを探した。
人通りのない路地裏に入ってそこを見つけた。
そこは、ずいぶん前に倒産した会社の廃ビル。
取っ手が壊れた裏口のドアから入り、中を見てまわる。
給湯室だったであろう個室の黄ばんだカレンダーから、数十年前に倒産したことがわかった。
給湯室を出て広い部屋に入る。
『ニャーっ…』
一匹の三毛猫が足元を走り抜けるのに驚いた。
「うわっ!なんだ…猫か…ん?」
広い部屋の隅から一匹の黒猫がゆっくりと俺の方に歩み寄り、頭を擦り寄せてきた。
まるで俺のことを歓迎しているかのように。
「なんだ?お前、俺のこと歓迎してんのか?」
俺がしゃがんで頭を撫でるとゴロゴロ喉を鳴らす。
「そっかぁ…俺な…親に捨てられたんだ…。お前…家族は?」
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黒猫は俺の言葉にキョトンとした表情で首をかしげる。
「そっか、猫って家族なんてもんないんだったな、すまん…。」
黒猫は、部屋の隅の方に戻り、何かをくわえて戻って来た。
それは袋に入った魚肉ソーセージだった。
しかも、賞味期限、2日前に切れてるし…。
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