余命僅かな天使たち
□初めの天使の死
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。
そして、別れは突然やって来た…。
その時、俺と歌唄は、朝からずっと部屋で本を読んで過ごしていた。
「うっ…。」
歌唄が突然、膝をつき、激しく咳き込み、吐いた。
「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!歌唄!」
俺は、歌唄を急いでベッドに寝かせた。
歌唄の病状は、ここ数日で急激に悪化した。
そのせいかガリガリに痩せ細り、骨と皮だけになって、とても軽かった。
ベッドに寝かせて点滴を打ち、掛布団をかける。
息も絶え絶えでいつ何があってもおかしくない状態だ。
「イクト…イクト…会いたいよぉ…。」
細々とそれだけ言うと涙を流す。
「歌唄?俺が誰かわかるか?」
「?空海…?」
歌唄は、意識が朦朧としているのか、俺の顔をちらっと見て絞り出したような声で聞いた。
・
俺は、こいつはもうダメだと悟った…。
「いいから、もう…喋るな…少し寝ろ…な?」
「うん…。」
そう言って歌唄は、眠った。
穏やかな寝息を立てて眠る歌唄を見て、数年前に事故死した母さんのことを思い出した。
みるみるうちに弱っていく母さんを見ながら何も出来ずにただ、泣いていたあの時と重なった。
「だから…俺を独りにするな…なぁ…?」
俺は、そう呟くことしかできなかった…。
俺は、歌唄が読んでた本を片づけ、床を拭いた。
胃液の酸っぱい臭いと血の臭いがする…。
ちらっと腕が見えた。
また痩せ始めた…。
しかも以前のようにゆっくりとではなく、急激に…。
―ドクッ…。
床を拭き終えたと同時に突発的な胸の違和感(痛みではない)に襲われ、胸を押さえて床に倒れる。
「待って…くれ…よ…俺には…まだ…守らねぇと…いけ…やつが…いるん…だよぉ…。まだ…。」
だが、その胸の違和感は、すぐに収まった。
・
恐かった…。
死ぬのってこんなに恐いことだったんだ…。
歌唄は…
あいつは、ガキの頃からこんな思いしながらずっと生きてたんだな…。
ずっと…。
俺は、さっさと片づけて、俺の分と歌唄の二人分の飯を作る。
料理の腕は、上がった。
はずだ…。
相変わらず、事情が事情でインスタントばっかりだが、肉や野菜の加工したやつを入れたり、食いやすいように工夫したりもする。
あいつを1日でも、1分でも1秒でも長く生かす為に…。
俺が一人の人間としてあいつに出来る精一杯の努力だ…。
飯を持って部屋に戻ると歌唄は起きてた。
「飯、作ったけど、食えるか?」
「うん…。」
俺から飯を受け取り、黙って食べる。
すぐにむせて血と一緒に吐いた。
歌唄の体が、物を食べることを…生きることを拒絶している…。
「今は、無理して食うな。食べたくなったら食えばいいから…。」
歌唄の飯を下げて背中を摩ってやる。
俺の飯は、歌唄がむせた時、ひっくり返して床にぶちまいちまった。
その後、歌唄が再び飯を食うことはなかった…。
・
その日の夜…。
「恨んでない?」
「うん?」
体を拭いてる俺に歌唄は、そう聞いた。
「私の身勝手で、家族から引き離して…無理矢理ここに住まわせて
そんな私を恨んでない?」
「…別に…俺は、自分で選んでお前んとこに来たんだよ。寧ろ、感謝してる。」
「感謝?」
俺は、歌唄の上半身を起こして髪を濡らした櫛で梳く。
「お前は、あの時、俺を助けてくれた。お前の助けがなかったら俺は、あの時点で死んでた。」
「あんたを助けたのは私だけじゃないわ…。」
「へっ?」
「なんもない…今の私に何か出来ることはある?」
「お前のこと…。」
この言葉でピクりと反応した。
「なんで、お前がその病気になったのか教えろ。俺はそれ以外、知りたくねぇ。」
歌唄は、はぁとため息を漏らし、少しずつ思い出しながら、話してくれた。