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□雫-rain-
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朝日の光が眩しく感じるこの時間帯になると、サンルームの草花が青々しく輝き、きらりと光る雫で彩られる。
俺はこの光景を見るのが好きだった。
朝早く起きてひっそりとそれを見に来るのは、半分日常になりつつある。
「んー…今日もいい天気だっ」
軽く背伸びをしながら、鷹士がサンルームの扉を開く。朝日が顔を出したばかりの空はやはりいつものように眩しく感じた。
しかし、珍しく先客の姿を確認した俺は不意に足を止める。間違えるはずがない。確かめるでもなく、俺の妹だ。
ヒトミはこちらに気付く様子もなく、しゃがみこんで植物を眺めている。
「よっ。どうしたんだ? 早いな」
「…! お、お兄ちゃん……おはよう」
「?」
何か焦ったようにも見えたが、ヒトミがそれに対して何も触れないので俺も気にしない事にした。
「で、ヒトミはどうしたんだ?」
「…早く起きちゃったから、何となく来てみたの」
「そうか。綺麗だろう?」
「うんっ」
ぱっと笑顔になった妹を見て、つい微笑ましく思えた。
妹はあっと言う間に高校生になり、身体や考え方なんかも確実にオトナに近付いてきている。
でも、やっぱり俺の中では『いつまでも可愛い妹』だから。
こんなことを考えるのは、もう少し後でもいいよな?
視界を霞めた草花に白く光る雫が見えた。
「じゃあお兄ちゃん、行ってくるね。夕方には帰ってくるから」
「ああ、気を付けて行ってくるんだぞ」
休みの日には妹はよく友達の梨恵ちゃん達と買い物に出掛けたりしているが、今日もそうらしい。
「ね。今日の夕ご飯はシチューがいいな」
「おうっ、お兄ちゃんにまかせとけ!」
言葉を交し、玄関でヒトミを見送ったあと、今日の夕飯に使う食材の確認をする。
「あれ……野菜が足りないな。今夜はシチューだって約束したのに…」
………。
時間も有るし、買いに行くか。
昼時だからか、商店街には人はあまり見当たらないようだった。
しかし喫茶店からは仲のいい家族連れや恋人同士の楽しそうな声が絶えない。
「…鷹士」
「あ、先生。今日も手伝いか?」
「まぁな」
シチューに必要な材料を適当に選び、先生に勘定を頼む。
「けど、お前が来るなんて珍しいな」