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□Missing you.
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セントリーフスクールのサッカー部は、毎年十月後半の一週間、強化合宿を行っていた。
とは言っても、毎年場所は予算内なら部員の自由にしていいし、規則はけっこう緩い。
そこが金持ち学校らしいのかもしれないが、少なくともオレ、華原雅紀は顔には出さないものの、この合宿が嫌いだった。
「華原は、何か意見とかあるか?」
部長が合宿の資料を片手に意見を聞いて回る。
内心まったく意見とかないので、適当に誤魔化してその場を逃れる。
オレが合宿に行きたくない理由は、去年とは違う、別の存在のせいだった。
去年の部員だけの合宿には息苦しささえも感じ、オレはただ朝から晩までボールを蹴って気をまぎらわせていた。
またあの繰り返しなのかと考えただけで目眩がする。
サッカーは好きだ。
……だけど、オレにはまたあの合宿に行く気力はさらさらなかった。
だけど、そんな考えを少しずつ変えていった。……あいつ、桜川の存在が。
今はもう、合宿に行くことよりも桜川と一週間も逢えない事の方が、正直こたえる。
「――じゃあ、今年の合宿先は長崎に決定でいいな?」
「……長崎?」
ボーッとしていて話を聞いていなかった。
部長がオレの方を振り返って、長崎の地図を物指しで示す。
「そうだ。長崎の……ここだ」
「離島……。今年は離島なんですか?」
「ああ。去年が高級旅館だっただろ。あれ実は費用が少しばかりオーバーしててさ」
「……そうなんですか……」
それ、初耳だけど……。
「だから今年は抑えておかなきゃな」
「でも、だからって長崎は抑え過ぎじゃないですか?」
「いいんだよ。残った分は来年お前らが好きに使えばいいさ」
一、二年がワッと騒ぎ出す。それに部長は豪快に笑って見せた。
……この人もいい加減お人好しだよな。なんでたかが部活の後輩に高校最後の合宿費を譲れるのか。
「それに、長崎は好きなんだ……俺」
「……?」
誰に言うでもない。自分に言うような独り言は、オレ以外の部員には届かなかった。
こうして、一ヶ月先の合宿予定はほぼ決定となった。
外を見ると夕陽が大分傾いている。
オレは正門に走った。
小柄な影が、オレに気付いたように手をふる。
「待たせてごめんね。行こうか」