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□DEEP RED
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「紅丸…」

暗い、闇。
見渡せば月の光だけが私を照らす。
その光は小さすぎて、私以外のモノを闇に誘うばかりだ。

「紅丸、どこじゃ」

何故か刀は手元にない。
不安が胸の中に広がる。

「…………七姫……」

微かだが、後方から聴き慣れた声が木霊した。

「紅丸…?」

振り返ってみても姿はない。
ああ、そうか。
紅丸の髪は紅いから、それを見付ければよいのか。
口許に安堵の笑みを浮かべて、再び耳を澄ます。
…大丈夫だ。私はあやつの主なのだから。絶対、大丈夫。見付けられる。

―――チャ……クチャ…クチャ…

「…?」

声ではないが、何やら音が聞こえる。
……遠くはない。
音の鳴る方へと、まるで誘われるかのようにふらふらと歩みを進めた。
……嫌な、予感がした。
背筋が凍るような、胸を貫かれるような…、確証はないけれど、そんな予感が。
暫し歩くと、音がはっきりとしてきたのが判った。
気付かぬうちに手を握り締めていたのか、ジンとした痛みが掌に走る。

「…紅丸、いるのか?」

―――ピチ…

声を発した刹那。
水音にもにた響きがピタリととまる。
金色の双眸が私を捕えた。
奴は手に抱えたそれを地に落とすと、グチャッと言う生々しい音が響いた。
私は目にとまる全ての紅色を見つめた。
…ああ、何て紅いのだろう。



私の、血は。





「……っ」

勢いよく体を起こし、布団を握り締める。
額にはおびただしい数の汗が肌を伝う。
呼吸を整えながら葵は、傍らに置かれている赤い刀を見つめた。

「……ゆめ…」

…不吉な夢だ。
どうにも寝覚めが悪いと感じ、ふと襖から空を眺めやる。
東の空がまだ暗い。
まだ寅の刻といったところか。

「七姫、どうした」

ふと後ろに現れた異形の気配を捉え、葵はビクンと肩を揺らす。

「……七姫?」
「あ…紅丸か……。どうかしたか?」
「それは我の言霊なのだが。…夢でも見たか」
「…………っ…」

一瞬、言葉につまってしまった。
紅丸の言う『夢』は、他にも意味がある。
私たち巫女が見る夢には、何かしら意味がある事が希にあるのだ。

「……見た。それにしても、本当に嫌な夢じゃったのう…」
「…ほう」
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