BL

□雪景色
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ねぇ…

今、どこにいる?



「綾人、起きてるか?」

雪が降り積もる静かな夜。
ノックもなしに僕の部屋に入ってきた隣室の友人は、夜中だからか声を潜めた。

「…どうしたの?」
「あのさ、聞きたいことがあって」
「何?」

無音だ。
外からは微かに街の灯りと人々の賑やかな声が聞こえる。

クリスマス。
恋人たちの、大切なひととき。

先ほどまでこの部屋で騒いでいたなんて信じられないくらい静かだ。
街の声が遠すぎて、僕たちだけが別の空間にいるみたいにさえ感じる。

「…綾人は」

ヨシヒサの口が、小さく開かれた。

「綾人は……怖いか?」
「………」

返事を返さなくとも、そんなの決まっている。
怖くない、はずがない。
いつ訪れるとも判らない死への恐怖。
彼は微かに目を細めた。

「夏海は…たぶん、オレと同じくらい――怖いのかなって……」

考えたら、苦しくて。
小さく、脅えているかのような彼の声。
いつもの明るい笑顔とは違う。

「少し……ここにいていいか…?」
「うん。僕も…いてほしい」
「……ありがとう」

ベッドの軋む音がやけに響く。
外に視線を移すと、変わらず雪は降り続けていた。

「綺麗…だな」
「うん」
「一緒に見るのがオレみたいな男で残念だろ?」
「そんな事ないけど…」

少しして、二人は互いを見合わせながら笑った。

「お前なら一緒にクリスマスを過ごす女なんて沢山いるだろ?」
「どうかな…案外、誰も僕のことなんて見えてないかもよ」

本当の僕の事を知ってる人間なんか…いないのかもしれない。
それは……僕が知って貰おうと思ってないから。

「それに今は、誰でもいいって訳じゃないしね…?」
「ふーん……ま、オレもそうだけどな」

変わらない笑顔。

彼は強い。
それは彼女がいてくれるから。
でも…弱い部分もある。
僕にしか見せない、彼のなかの弱い部分。
僕と共有する恐怖。
誰にも見せない、彼の素顔。

今はすべてが愛しい。

けれど、同じ痛みを分かち合える『友達』でじゅうぶんだから。
決して多くは望まない。
それが僕の生き方だから。

「…綾人? 具合い悪いのか?」
「あっ……ごめん」

何でもないよと、いつも通りに笑顔を向ける。
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