BL

□Andante
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忘れられなかった。

僕の顔を見て首を傾げた仕草も。
目を見開いた貴方の顔も。
確かめるように呼ぶ声も。

はじめて、僕に向けた。
貴方が『他人』を見る目を。


向けられた。
寂しさを。





「っと…」

僕は軽い眩暈を覚えて、ふらりと隣の壁に寄りかかる。
貧血だろうか。
だけど、暫く目を閉じていると頭が落ち着いてきたから、そのまま夕暮れの家路についた。

日も高くないこんなに寒い季節に貧血なんて、なんだか自分が情けない。

少し歩いたところで、後ろの方から車のクラクションが小さく、しかし軽快に鳴った。
振り返るとそこには見慣れた笑顔。

「あ…鷹士さん」
「今帰りか?」
「はい」

鷹士さんの車がとまった場所の近くに、急いで駆け寄る。
こんな時間にこんな場所で会えるのは、ちょっと珍しいのだ。
なんだかそれだけで嬉しくなってしまう。

「大丈夫か? ちょっとふらふらしてたみたいだけど」

心配そうに顔を覗き込まれた。
だから慌てて首を振る。

「だ、大丈夫だよ」
「そっか…。ほら、早く乗って。乗せてってやるからさ」
「い、いいんですか? ありがとうございます、鷹士さん」
「ああ。ほら」

助手席の鍵を開けて僕を招き入れる。
鷹士さんの車に乗るのは初めてじゃないのに、何故かいつも緊張してしまう。
それでもやっぱり嬉しいのも確かで。
つい顔が綻んでしまうのが、自分でも判るくらいだ。

「…? 透、何かあったのか? やけに嬉しそうだけど」
「……はい」
「そうか。よかったな」

詳しいことは何も言っていないのに、鷹士さんは自分も嬉しそうに微笑んだ。
その顔がどこまでも優しいから、僕はまた一瞬見とれてしまう。

「さ、行くか」

鷹士さんのその言葉ではっと気付いて、慌ててシートベルトをしめる。

最近の僕は、どこか変なんだ。
自分でも判る。
それは、鷹士さんに対して。


鷹士さんは、僕の憧れだった。

こんな僕でも、いつも本当の弟みたいに可愛がってくれて。
ヒトミちゃんと同じように大切にしてくれて。
強くて、優しくて、かっこよくて。

いつか僕も―――――…。



「…透、ついたぞ」
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