BL

□Love letter.
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いつもみたいに、望月家に来た日のこと。
あんずもまだ仕事から帰ってきてないし、おばさんも演奏会が夜にあるらしく、珍しく草兄と二人きりのときだった。

「何か食べるかい?」

草兄が優しく聞いてくる。

「え、草兄が作ってくれんの?」
「ああ。もうこんな時間だし、俺の夕食でよかったら」
「もちろん、食べれるなら有難く貰うよ」
「よかった」

何か手際よく作り出す草兄の後ろ姿を眺めていると、ふと隣の椅子に目が移る。
草兄の鞄からはみ出した手紙だった。しかも、一通や二通じゃない。

「……………」
「恭介君は、辛いものは平気かな?」

手を伸ばそうとした瞬間に声をかけられ、ビクッと身構えてしまう。

「あ、ああ」

振り返らず手を動かしながらってトコが、さすがと言うかなんと言うか。
って言うか……さっきから漂うこの強烈な香りは……まさか。

「はい、出来たぞキムチ鍋」
「……赤いね」
「キムチだからな」
「……それにしては、赤すぎない?」
「そうかな。俺は普通だと思うけど……」

草兄は早速箸をつける。
見た限り普通に食べてるし……。
よ、よし。オレも―――――。





「……大丈夫か?」
「うん。もう、けっこう平気」
「ごめんな、久しぶりに作ったから、アレ、入れすぎたみたいで……」

あまりの辛さにそれ以上箸を持つ気になれない。

「オレの方こそごめんな、草兄。せっかく作って貰ったのに食えないなんて」
「いや、恭介君は確かふだん和食が主だろう。少し味がキツかったのかな」

少しじゃないだろ少しじゃ。
そう思ったけど口には出さなかった。
あることが疑問に感じたからだ。

「そんなの、よく知ってるな」
「え? ……まぁね。母さんに聞いたんだ」
「……ふーん……」

嘘だな、と思った。
どうせあんずに近付く男のことは、ある程度調べているに違いない。
オレもその中の一人だったって事だろ。
なんでだろう。
判っていた事なのに、むかつく。

「何か他のものを用意しようか」
「い、いいよ。悪いし」
「簡単なものならすぐに作れるから」

話聞いてないし……。
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