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□配信済小説集
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ああ、また目が合った。

「……何?」
「別に」
「……………」

そう答えたけれど、彼はまだ怪訝そうな顔を作っている。
渡された商品を一品づつレジに通して、とりあえず金額を告げた。

「1280円」
「…」

渡されたのは1300円。
おつりの20円を手渡すと同時に、小さく囁く。

「いつもありがとう。…また今度なにかオマケしてあげる」

彼は驚いたように一瞬だけ動きを止める。
それもそうだろう。
いままで顔はよく合わせてたけど、こんな事を言ったのは初めてだから。

「……ども」

そして、彼らしい短い返事を残して、荷物を手に取る。
向けられた背中に、今度は普通の大きさで言った。

「来週、誕生日なんだよね」
「……?」
「あまーいケーキが食べたいなぁ。手作りの」
「…なっ」

流石にハッとしたのか、彼は店内を軽く見渡すと振り向いた。

「店内にお客さんは誰もいないよ。君以外はね」
「……何が言いたい?」
「別に、そのまんまの意味だよ」
「……………」

彼は暫く無言になり、小さく確かめるように言った。

「…誰にも言ってないだろうな?」
「君が買いに来るときは、周りに知られたくないみたいだったから。言ってないよ」

すると、短く溜め息をついて。

「…考えとくっス」

それだけ言うと、再び背を向けた。
店を出る直前。

「楽しみにしてる」
「……っス」

少し照れたように頷いた彼が見えなくなると同時に、自分もつい笑みが零れた。




END
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