BL

□雪景色
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けれどヨシヒサの顔が少しだけ揺れた。

視界が霞む。
続いて、冷たいものが頬を伝う。

ヨシヒサの驚いた顔も、良くは見えなかった。
ただ焦る仕草は痛いくらい伝わって。
うつ向くと、遠慮がちに温かな指先が、僕の涙を拭った。
びっくりして顔を上げると、照れたように笑うヨシヒサがいる。

そして。

「泣くな。…な?」
「……うん…」

僕の顔を見ないように優しく肩を抱いて、涙がとまるのを待ってくれている。
けれどその暖かさに、涙は枯れる事はなくて。

「………綾人」
「…ん…?」

少しだけ顔を上げた僕の頬に、柔らかいモノが触れた。
人なつっこい綺麗な瞳は、今は閉じられている。

ゆっくりと、涙を舐められた。

「……ヨシヒサ…」
「あ、…その。……オレ、こんな時どうしたらいいかなんて判らないから…つい……ごめんな」
「……ううん、嬉しい」

本当に、嬉しいよ。
君が僕の『友達』で…良かった。

「僕たち……友達だよね…」
「ああ、当たり前だろ? ずっと友達だ」

――約束だよ…

そう何度も囁く僕の肩を抱いて、ヨシヒサは頷いた。



「……死ん…だ?」

信じられなかった。

だって彼は…ヨシヒサは、翌日まで笑っていたんだ。
明日もまた来ると、あの優しい顔で言ったんだ。

ずっと友達でいると……約束したんだ。

「信じない」
「綾人さん…」
「信じたくないんだ…っ!」

女の子相手にここまで声を張り上げるなんて、初めてかもしれない。
夏海ちゃんはそんな僕を、心配そうに見つめている。

「……ごめん、怒鳴ったりして。君の方が…大変なのに……」
「…ううん」
「しばらく……一人にしてくれないかな」
「………」

夏海ちゃんは一礼した後、病室を出た。


ふらふらとふらつく足を叱咤して、遺影を見に行く。
その間、あの日のヨシヒサが頭から離れなかった。

部屋の前で、足をとめる。

「…ヨシヒサ」

そっと名前を口にする。
そうすると、今でもあの元気な声が聞こえてくる気がして。

ドアノブを握る手が冷えていく。

開くと、薄暗い室内に彼がいた。
白い布を静かにとると、まるで眠っているように彼がいた。
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