BL

□夢涙
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「? どうし…」

身体を起こす。
さっきよりはだいぶ楽になっていた。

――ぽた…

手のひらに暖かい雫が零れ落ちる。
…これ、汗……じゃない。
ゆっくりと右手を顔に近づける。
つうっと。
涙が頬を伝う感触。

…涙…。

「…っ」

オレはとっさに蒲団を被った。
何で。
何で泣いてるんだよ。

「雅紀」

名前を呼ばれて、一瞬身体が小さく跳ねる。
しかし、続いてきた言葉は予想していたものとは違った。

「俺薬探してくるから。食べれそうだったら食うんだぞ」

…あれ?
間もなく扉の閉まる音がする。
鷹士が部屋から出て行ったのだろう。

「………」

たしかにもう誰もいない。
オレは手で涙を拭うと、目の前に置かれた食事に手を伸ばした。



何で泣いたかなんて、判らない


でも
なんでだろう

鷹士さんには


見られたくなかったな…



「…美味しい」
「それはよかった」
「!?」

何気ない独り言に予想しなかった返事が返ってきて、とっさに箸をおく。

「はい。薬。…おー、結構食べたな」
「あ、あんた…、いつの間に…っ」
「? 言っただろ、薬取りに行くって」

おいおい。
こういう時って気を利かせて、暫く一人にするもんじゃないのか…。
…まあいらないお節介だけど。

「薬飲んだら、どうする? 帰れるか?」
「あ…はい」

ビンから薬の粒を3つ取り出す。
口に含んで一気に飲み込む。
…薬なんて、オレの部屋あったかな…。
そんなことを考えている時だった。
鷹士の顔が近づいてくる。

「…雅紀」
「な…、なんですか」
「目、赤いな…。もうちょっとここにいるか?」

言われてはっとする。
泣いた後の顔で他の住人に見付かったら、数人面倒そうなのがいるからな…。
ここは素直にもう暫くいさせてもらおう。

「…お願いします」
「ああ。俺はかまわないから。…まだ寝るか?」
「いえ。もう十分寝たんで」
「そっか。なら……あっ、アイス食べたらどうだ?」
「アイスって…オレが買った?」
「そうそう。あれだけ冷やしとかないとまずかったから今冷やしてるんだよ。持ってくる」

鷹士は再び立ち上がる。
オレはその背中に、無意識に声をかけた。

「……聞かないんですね。何も」
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