BL

□Andante
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「え? あっ…」

気が付くと、もうマンションの前についていた。
車から降りる途中、鷹士さんが心配そうに口を開く。

「…本当に大丈夫か? どこか具合い悪いんじゃ……」
「う、ううん。大丈夫です」
「ならいいんだけど…気を付けろよ。寒くなってきたから」
「判りました。えっと、乗せてくれてありがとう、鷹士さん」
「ああ。…じゃ、後で」

車から降りて扉をしめる。
そのまま走り去る車の後ろ姿を見送って、マンションの入り口を眺めた。
その時、視界のすみに白いものが揺れた気がした。

「―――あ…」

雪だ。



あれは、まだ僕らが小学校に上がったばかりの頃の話。
こんな風に、ゆっくりと小さな雪の舞う日だった。
―――だよね…?
え?
幼い僕は、隣にいる誰かに必死に問い掛ける。
―――…うん……だから…
誰…?
僕、誰と話してるの…?
一緒にいるのは……。
―――約束……

キィン!



「…っ」

急に鳴った耳鳴りに、頭を押さえてその場にかがむ。
けれど、やっぱり少しすると治まっていて。

「……鷹士さんの言う通り、疲れてるのかな?」

そう言いつつも、対して気にしていないように歩き出す。



部屋につくと、机の上に鞄を置いてそのままベッドに横になった。
目を閉じて、ゆっくり息を吐く。
……別に、さっきの耳鳴り以外に頭が痛い訳ではないし、体がダルイという感じもしない。
やっぱり…気のせいなのかな。
そう自分にいい聞かせて、夕御飯を作ろうと立ち上がった。
―――コンコン。

「? はい」

ノックの音に気付いてつい小走りになる。
玄関の扉を開けると、そこには見慣れた女の子がいた。

「あ、透くん。今いいかな?」
「ヒトミちゃん! ど、どうしたの?」

訪ねてきたのは幼なじみの桜川ヒトミ。
片手に買い物袋を下げて、やわらかく微笑んだ。

「今日ね、私の家でお鍋するんだけど、よかったら透くんもどうかなかって」

どうやら買い物袋に入ってるのはお鍋の材料らしい。
僕は思ってもみなかったお誘いに、少し驚いた。
……だけど。

「…い、いいの?」
「もちろん」
「ありがとう。じゃあ、よろこんで」
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