BL

□Andante
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僕はヒトミちゃんが持っている袋を持ち上げた。

「持つよ。行こう」
「ありがとう、透くん。行こうか、お兄ちゃんも待ってるし」

その言葉に、一瞬心臓が跳ねた。

「? どうしたの?」
「あ…何でもないよ。平気…だから」
「…そう?」

少し納得いかないとでも言いたそうに見つめられたけど、諦めたようにまた歩き出した。

「久しぶりだね。三人で鍋って」
「そうだね」

そんな話をしている間に、ヒトミちゃんの家の前につく。

「ただいま。透くん連れて来たよ」
「お、お邪魔します…」
「透か。よく来たな。じゃあ準備するか。ヒトミ、手伝ってくれるか」
「うんっ」
「あ、これ材料だよね」
「うん、ありがと」

袋を手渡して、差し出された場所へ座る。
手伝おうかとも提案したのだが、お客様だからとヒトミちゃんにやんわり断られた。

…ぐつぐつ。

目の前には美味しそうなお鍋。
食器や夕食が、次々と用意されていく。
僕は、なにもしなくていいと言われたけどやっぱり食器を並べたりして、ちょっと手伝わせて貰った。

…ぐつぐつ。

白い湯気が立ち上る。
もう食事が出来る頃だなと言うときだった。
二人が台所で何か話をしていて、ダイニングに僕一人だった。

「…美味しそう」

香りが色を増してきて、僕は鍋を覗き込んでみる。
……あの日も、鍋だったな…。

「…?」

……あの日?
あの日って、いつだろう。
僕は視線を移して外を眺めてみた。
雪が降っている。白い、綺麗な雪。

「……なにか」

なにか、思い出そうとしている?
僕は……。なにかを忘れているの?
この、断片的に出てくる記憶。
これが意味するものは……。

「…じゃ、早く食べようか」

その言葉で軽く我にかえる。
気が付くと二人はすでに隣にいて、食事の用意をしていた。

「はい、透」
「あ、ありがとうございます」

鷹士さんからごはんを受取り、箸を持つ。
本当に美味しそう。
あの断片的な記憶のことは気になるけど、今はこの食事を楽しもう。
そう、自分にいい聞かせた。



「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」

楽しい時間は早く過ぎるって言うけれど、本当だったんだ。
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