短編C

□予想外の出来事
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「私の顔に何かついているのか?」

 俺の視線に気がついた少尉は、不機嫌ではなかったが(彼女はいつも無表情だからもしかしたら怒ってるかもしれない)しっかりと俺を見てそう問い掛けた。俺はぴしっと背筋を伸ばして、先ず謝罪の言葉を口にした。

「すみません。いや、その……髪が訓練の邪魔にならないのかな〜、と個人的に思いましたので」
「髪?」
「どうでもいい事言ってすみません!少尉の勝手ですからね」

 余計なお世話でした!としゃきーっと背筋を伸ばしたまま言えば、彼女は自分の長い髪をひとふさとってじーっと見つめている。

「そういえば……たしかに邪魔だな」
「!」
「曹長はすっきりした髪型だから余計にそう思える」

 自分の髪から俺の短髪つんつん頭へと視線を移した彼女は妙に納得した風にそう頷いた。あれだけ長い髪を揺らしながらあの激しい訓練にうちこんでいるというのに気付いていなかった、とあっさりと言い切った彼女がいつもの冷静沈着さを欠いているようで不思議な気分だ。まさか自分の意見に賛同してくれるとは思わなかった俺は、ただじーっと彼女を見つめる事しか出来なかった。数秒の沈黙が続いた後、彼女は衝撃の言葉を口にした。

「切ってしまおうか」
「そんな!!もったいないですよ!」
「もったいない?」
「そうですよ。せっかく綺麗な髪なんですから」
「軍人に髪の綺麗さなど必要ない」
「いや、確かにそうですけど」

 このままだと本気で髪を切ってしまいそうな彼女。どうやら自分の容姿には全く興味がないようだ。軍人の鑑といえば聞こえはいいが、まだ少女という方が似合う年頃の女の子とは相当ズレている。

「そうだ!ミン中尉みたいに結んでみてはどうですか?」
「ミン中尉?」
「はい。あの髪型だったらまとまってて邪魔にならないと思いますよ!」
「……やり方がわからん」
「俺も、っす」

 微妙な空気が流れたが俺はすぐに思考を切り替えた。

「分かんないなら聞きに行きましょう」
「迷惑になるのではないか?」
「髪の結び方を教えてもらうだけじゃないですか」

 思案顔の彼女の手をとり、行きましょう!と満面の笑顔で言ったら彼女は困ったように小さく笑って頷いた。
 あわよくば中佐に会えるかもしれない、などという邪まな考えがあった事は割愛しておこう。















外の出来

(これが普通になればいいのに)




fin...

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