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□彼女の心、彼ら知らず。
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※「高校デビューは失敗につき」の続きです。
「あ、奈緒先輩来たぞ!」
「久し振りだな、奈緒」
「……遅い」
「初のバイクはどうでしたか?」
マックに到着した私を迎えたのは、二階の中心辺りに堂々と陣取る異様な集団だった。
何故か全員いる。もう帰りたい。
ゲンナリとした気持ちが顔に出ていたのだろう、ペインさんが誠意のない謝罪を口にした。
「初日から悪いな」
「……悪いと思っているなら呼ばないでください」
「それは無理だな」
「Q.悪いと思っていますか?」
「A.思ってないわね」
優雅にマックフルーリーを食していた小南さんが、ざっくりと答えてくれる。……これ以上聴く気にもならないので、大人しく席に座ることにした。
四人席をたくさん陣取った席。
正面:飛段、右:デイダラ、斜め前:トビ。
「……この席、嫌がらせ?」
「何処がだよ、うん!」
「そうですよー、折角の席ですよー!」
「うるさいメンバーしかいないところに悪意を感じる」
ちなみに言えば、反対側の隣はサソリ、その正面はイタチだった。
「美形に囲まれていると思って喜べ」
「ナルシストうぜー! 死んでしまえサソリ!」
いくら美形でも、うるさかったら一気にぶち壊しだよ!
絶叫していると、目が合ったイタチが宥めるように微笑んだ。
「落ち着け、奈緒」
「あ……うん」
「いきなり呼び出してすまなかったな」
「いや、別にイタチは悪くないし、」
「……このポテトは奈緒の分だ」
「……えっ」
何この良い人。
すっと差し出されたポテトを、まじまじと見る私。
「い、良いの……?」
「いきなり呼び出したから、金もないだろう?」
「あ、ああ、うん……」
「私とイタチさんで買ったんですよ。遠慮なく食べてください」
「い、イタチ、鬼鮫……! あ、ありがとう! 本当にありがとう! ごめんね!」
なんだこの良い奴らは! 正面と両隣とは比べ物にならない優しさだよ!
感動に目頭が熱くなるのを感じながら、ポテトを摘まむ。
あー、脂っぽい。この体に悪い感じが美味しいよね。
噛み締めていると、伸びてきた手が正面からポテトを一本奪おうとした。
「っ!」
ばっとポテトを袋ごと持ち、飛段を睨みつける。
「……飛段」
「何だよ」
「これ、私のポテト」
「別に良いだろ、一本くらい」
「駄目! 絶対駄目!」
「……奈緒、俺とイタチに対する態度が随分違わねぇか?」
「全面的に問題は自分にあるから。ポテトはあげない」
油断も隙もならないやつだ。
バチバチと火花を散らして睨み合っていると、いつの間にかコーヒーをお代わりに行っていたペインさんが席に座りながら声を掛けてきた。
「高校は、どんな感じだ?」
和ませたいのは分かるけど空気を読んで欲しい。
「……この馬鹿のせいでぶち壊しでした」
「うるせぇな! 何もしてねぇだろ!」
「バイクで門の前に乗り付けといてどの口が言う、それは!」
「……災難だったな、奈緒」
「……でも、呼び付けさせたのはリーダーだよな?」
同情を示したペインさんに、無邪気にデイダラが切り込みを入れる。
落ち込んだらしい彼は、しばしの沈黙の後に言った。
「……今度は、俺が行こう」
「むしろ一番来ないでください!」
顔面ピアスが来たら、全て終わるよ!
「なら俺が行くか。場所も分かってるしな……」
「サソリ」
「なんだ」
「うちの学校を調べたのはどういう目的ですか。ストーカーか」
「……旦那、調べたのか?」
「当たり前だろ。間取りは今度確かめに行くつもりだけどな」
「ならオイラにも教えてくれよ!」
「ちょっとそこ待て!」
私のプライバシーは、このメンバーの中では存在していないのだった。……思い出したくなかったよ。
ただでさえ、自宅がわれて困っているのに。電話があって窓の外を見たら彼がいて天体観測な流れとか、この前リアルにあったんですけど(ちなみに相手はデイダラだった)。
「目的! 目的は何!?」
教室の場所までバレたら、乗り込んで来られる!
ちょっとビビりながら訊くと、サソリはめちゃくちゃ良い顔をして答えた。
「お前に何かあったら、相手を廃人にしてやる」
「しなくて良いよ! 誰かこの人止めて!」
サディストめ。本当にやりそうだから怖い。
何かあっても、絶対に誰にも言わない。そう心に決めた瞬間だった。
ていうか、私の気持ちとか考えに入らないんですか?
さも当然そうな顔をしているサソリに、怒り以上に恐怖が募る。こいつ絶対来る気だよ。情報を隠匿しても流れそうだから怖い。
目が合うのも怖いのでバッと顔を動かすと、ビッグマックに食らいついていた飛段がこっちを見ていた。
「……なに?」
「……スカート短くなったよな」
「飛段、それセクハラ?」
「もっと折れよ」
「セクハラ! デイダラ助けて君の先輩がセクハラしてるよ!」
「奈緒先輩、オイラは別に無理してスカートを折れなんて言わないから、だから、現状維持で」
「初めて会ったときの純粋さは何処に行ったの! 感化された!?」
「どうせ下に体操服のズボン着用に決まっているだろう、色気の欠片もないな」
「サソリは余計な御世話だから黙ってて!」
いや、本当に、ですね。
私の気持ちとか、考えてほしいんですけど……。
(ヒロインが普通に可哀想)