白部屋2

□謎の転校生
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 昼休み。
 今日このクラスに転入してきたばかりの胡桃は、数人の女子生徒に囲まれていた。
「鷹野さん、一緒にお昼食べない?」
 そのうちの一人――たつきが、そう言って胡桃を誘う。すると、胡桃は少し考えるような顔をした、が――
 そのとき、教室の外から、「胡桃!」と大きな声が聞こえてきた。
 教室の中にいた人間が一斉にそちらを向くと、そこに立っていた女子生徒――背が高く、金髪に赤いメッシュを入れている――は、ずかずかと教室に入って来て胡桃の肩を掴んだ。
「遅ぇぞ、胡桃。いつまで待たせる気だよ」
 彼女の言葉に、胡桃はにっこりと笑って答える。
「せっかちは駄目ですよう、茉莉花ちゃん」
「うるせぇ」
 茉莉花と呼ばれた少女が眉を顰めると、胡桃はそれを愉快そうに見遣り、それから、自分を取り囲む女子生徒たちに言った。
「ごめんなさい、今日は茉莉花ちゃんと食べる約束をしてるんです。また今度でいいですか?」
 胡桃の言葉に、突然の闖入者に驚いたような顔をしていた織姫が、「え、うん」と首を縦に振る。
「また今度、よかったら茉莉花ちゃん?も一緒に食べよう」
「ですって。茉莉花ちゃん、良いですよね?」
「――今度ならな」
 早くしろ、と言いたげに不機嫌を丸出しにする茉莉花を見て、「それじゃあ」と胡桃も立ち上がった。
「胡桃はこれで失礼しますね。またお昼休みが終わったら会いましょう」
 そして、そのまま出て行く二人の少女を見ながら――織姫は、ぽつり、と呟いた。
「なんか、変わった子たちだね」




「鷹野さん」
 教室から出てきた胡桃に、ドアの外で待っていた雨竜はそう声をかけた。
「今、ちょっといいかな」
 彼の言葉に、胡桃は驚きもせずに答える。
「今話すにはちょっと時間がかかりすぎませんか? よかったら、放課後にでも」
「そうだね――それがいいかもしれない」
 言葉を交わす胡桃と雨竜に、脇に立っていた茉莉花が「胡桃」と口を挟んだ。
「俺も一緒にいた方がいいか?」
 そう言った茉莉花は、雨竜に敵意のようなものを浮かべた視線を注いでいる。胡桃は「いいえ」と首を横に振った。
「茉莉花ちゃんがいたらややこしそうだから、待っててください」
「胡桃、でも……」
「待っててください」
 大きな目で、胡桃は茉莉花にじっと視線を注ぐ。茉莉花は渋々ながら頷いた。
「……分かった」
 それを満足げに見遣って、「それじゃあ」と胡桃は雨竜に向きなおった。
「また放課後。教室で待っていますね」
「うん。また放課後」
 そう言って教室の中に戻って行く雨竜を見ながら、胡桃は声を弾ませた。
「ふふふ、滅却師くん、ですか。楽しいことになりそうですね」




 放課後。
 空になった教室の中には、胡桃と雨竜の姿があった。
「まず訊く――。君は死神だね?」
 単刀直入な雨竜の言葉に、胡桃はにっこりと微笑んで応えた。
「そうですよ、滅却師くん」
「……こちらの正体はお見通しみたいだね」
「尸・魂界で君のことを知らない人はいませんよ? 絶滅したはずの滅却師の生き残り、少数で乗り込んで来た旅禍の一員って」
 挑発するかのように言葉を並べて、胡桃は雨竜の反応を窺う。
 雨竜は眼鏡を押し上げて、「君は何者なんだい?」と尋ねた。
「もし尸・魂界から新しく死神が派遣されるなら、朽木さんを通して僕たちにも話があるはずだ。ところが、今回はそれがなかった。君が現世にやって来た目的は何なんだい?」
「ふふ、さすが、鋭いですね」
 胡桃はそう言って楽しげに笑い、「胡桃は」と言葉を続けた。
「胡桃は、死神の中でも特殊な存在である‘影’の一員です」
「……‘影’?」
「朽木ルキアを通して話がなかったのは、‘影’の命令系統が護廷十三隊のそれから独立しているからです」
「その、‘影’というのは何なんだ?」
「そうですね、説明するのは難しいですけど、強いて言うなら――」
 言いかけた胡桃だったが、ぴくり、と肩を震わせて言葉を途切れさせた。
「……感じてますか?」
 胡桃の言葉に、雨竜は「ああ」と頷く。
「この霊圧――破面だ」
「そうです。破面です」
 椅子から立ち上がって、胡桃は口の中にキャンディを放り込んだ。擬骸から、「死神」としての彼女の体が抜け出る。
「行きましょう、滅却師くん。‘影’が一体何者なのか、見せてあげますよ」









続きます……!

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