白部屋2

□文学少女破面とbS
1ページ/1ページ





 ある日、ウルキオラ様が突然私の部屋にやって来て告げたのが、すべての始まりだった。
「藍染様のご命令で、明日からお前は俺の従属官になることが決まった。荷物をまとめ次第俺の宮へ来い」
 それは本当に、突然のことだった。
 そのとき私が何をしていたかと言うと、ロリの「藍染様がどれだけ格好良いか」という話をメノリと聞いていたところで、だから本当に、何の前触れもなかった。
 伝えることだけ伝えてウルキオラ様が去ってしまうと、ロリとメノリは早速別れを惜しみつつウルキオラ様の悪口を言い始めた。私はそれを適当に聞き流して、「引っ越しの準備があるから」と二人を部屋から追い出した後、一人でガッツポーズをして拳を突き上げたのだった。
(よっしゃああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!)
 何を隠そう、私はウルキオラ様の大ファンなのである。
 全く理解を得られないどころか信じられないと言いたげな眼差しで見られるので今まで誰かにカミングアウトしたことはないが、それはもう、熱烈なファンだ。
 ファンと言っても、現世の少女漫画に出てくる女の子の「あの人と結婚したい」とかいう分類ではない。簡単に言えば、「あの人のおはようからおやすみまで、あとできるなら寝顔も見つめていたい」という、まあつまり変態の部類である。だから今まで他人に言えなかったのもある。
 しかし。
 これで私は、ストーカー行為を正当化できる理由を得たのだ。
 従属官が住むのは、相手の十刃の自宮。ウルキオラ様はガードが固いだろうから寝顔は見られないと思うが、おはようからおやすみまでを見守り続ける権利を得たのだ。
 私は実のところ「強い者に付く」原理で藍染様に付いただけで別に藍染様を尊敬してはいないが、今回ばかりは藍染様に感謝した。
 藍染様のことだ、きっと私の内なる願いに気付いていて、それを叶えてくれたに違いない。



 そして、翌日。
 私の引っ越しが始まった。
 何せ私は荷物が多い。現世に出没しては本を万引きしまくっているからなのだが、本だけでもものすごい量がある。
 しかしながら、ウルキオラ様はおそらく、自宮に他人を入れるのは好まないだろう。
 だから、丸一日かかって、私は本たちを従属官の部屋に運び込んだのだった。一つ助かったことと言えば、他に従属官がいないから、部屋をたくさん使えることだろう。私の居住スペースは、もしかしたらウルキオラ様よりも広いかもしれない。
 とまあ、引っ越し作業も終了して。
 私とウルキオラ様は、現世で言うところのダイニング的な部屋にいた。
 特に理由はなく、私がコーヒーを淹れに出てきたらウルキオラ様がいたという話なのだが、主を差し置いてコーヒーを飲むわけにはいくまい。
「ウルキオラ様、コーヒーは飲まれますか?」
 インスタントコーヒーを見せて尋ねると、彼は小さく首を縦に振った。
 ちなみにこのインスタントコーヒーは、私が前の部屋から持って来たものだ。ウルキオラ様の自宮には、本当に、何もない。飲み物もおそらく、今までは白湯とかで済ませてきたのだろう。
 コーヒーを淹れてウルキオラ様の前に置き、私もマグカップを持って、彼の向かいに座る。
 特に話すことがあるわけではない。
 彼は生来あまり話さない性質なのだろうし、私は私で不用意な言葉を発して嫌われるのが怖くて、押し黙ったままコーヒーを啜る。
 やがて、ウルキオラ様が、口を開いた。
「何故本を読む?」
 それは、何度も何度も、他の破面から問われた問い。慣れた会話なので、私はいつも答えるときに使う言葉を口にする。
「本がですね、この孔を埋めてくれるような気がするんです。足りない感情を、私の代わりに教えてくれる気がするんです」
「そのようなことは戯言だ。俺たち破面に、感情はない」
「そうですね。だから私が覚えているのはきっと錯覚なんだと思います。でも、錯覚でも、本を読むことは、私にとっての快感なんです。だから私は本を蒐集するし、読むんです」
 ウルキオラ様もどうですか、と勧めるだけの勇気は、私にはない。
 しばらくの沈黙の後、ウルキオラ様は、コーヒーの湖面に視線を落として呟いた。
「俺の虚無は、何物にも埋めることはできないだろう」
 その表情が、まるで世界の全てから断絶されているかのようで、私は少し、悲しくなる。その時初めて、私は、この人の傍にいたいと思った。
 私がウルキオラ様に抱いている想いは、現世の本がもたらした、幻想なのかもしれない。それでも、このとき、私は確かに、この人を愛しいと思ったのだ。
「――ウルキオラ様、」
 ずっとずっと、私はウルキオラ様の傍にいよう。彼を見つめ続けよう。そしたら、何か、変わるかもしれないから。
「一生お仕え致します」
 ゆっくりと席を立って、私は彼の前に跪き、頭を下げる。
「……急にどうした」
 ウルキオラ様が怪訝な顔をしたのが、気配で分かる。
 私は顔を上げると、いえ、と微笑んだ。
「着任の挨拶がまだだったな、と思っただけです」
 この想いは誰にも秘密だ。きっと誰の理解も得られない。
 でも。
 この想いを胸に、ずっとずっと、この人に仕えていこうと、私は、心に決めたのだった。












私のウルキオラへの想いを夢主に語らせてみた自己満足小説。
他の破面たちともごちゃごちゃやりながら続くかもです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ