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□貴方に触れさせて
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厚手のジャケット、フード、口元のスカーフ、手袋、長い髪。
ユキゾナは、体をすっぽりと覆い隠している。
それが何故なのか、分からない私じゃない。ユキゾナは気を遣っているのだ。自分の病気のことで、少しでも他人が不快な思いをしなくて済むようにと。それは彼の優しさだ。だから彼は、夏でもほとんど同じ格好をしている。そうして、病弱な体を圧して戦っているのだ。
そんな彼の優しいところが好きだ。
でも、同時に、少し寂しい。
「ねえユキゾナ、手つなごう」
「ああ」
私はユキゾナと手を繋ぐけれど、その手が直接彼の手に触れる日は来ない。何故なら、彼がそれを嫌がるから。口付け合うこともなければ、体を重ねることもない。それが私と彼の関係。彼を選んだ私の、宿命。
分かっていたのだ。ユキゾナを好きになった時から。そして、分かったうえで、そんな彼を支えたいと思った。
それが何故だろう。今になると、この距離――布一枚分の距離が、ひどくもどかしい。
「……すまない」
「ううん、謝らないで」
申し訳なさそうな顔をするユキゾナに、私の胸の罪悪感がチクリと痛む。
悪いのは、私。ユキゾナに無理な望みを抱く、私が悪い。何故なら、その望みがまた、ユキゾナを苦しめているのだから。
「私は、ユキゾナといれるだけで幸せだよ」
そう、それだけは嘘じゃない。それは確かなのだ。
だから、
「……ねえユキゾナ、抱き締めて」
「分かった」
「強く強く、壊れるくらいに抱き締めて」
これくらいは許してほしい。
「好きだよ、ユキゾナ。愛してる」
ユキゾナのことが好きだ。優しくて、その優しさ故に、決して直接触れることのできないユキゾナのことが。
でも、だから、せめて。
布一枚を隔てていたとしても、少しでも長く、ユキゾナに触れていたい。
(だって私は貴方を愛しているから)
ユキゾナの厚着の理由に想いを馳せてみた。