【むねドキ After】


「それじゃあ皆さん、お疲れ様です」

「お疲れ様でした先生」

「気を付けて帰って下さいね」

 帰りにナースステーションに寄ると口々に挨拶をされ、アレンは笑顔で会釈をする。

「デートか」

「なっ…!?」

 業務用の通用口から出ようとした途端、暗闇からヌッと出てきたクロスに言われた言葉に、アレンは思わず叫びかける。

「デートなんかじゃありません!」

「あの元入院患者と会うんだろ?デートじゃないか」

 アレンの否定を無視しながらクロスはそう言い、「どこまでいったんだ?」とアレンに聞く。

「何ですかどこまでって…。たまたま趣味が合って仲良くなっただけです。そもそもラビは男です」

「同性を好きになる弟子を受け入れる心の優しい師で良かったな馬鹿弟子」

 アレンの言葉を無視しまくりながらクロスは自画自賛の言葉と共にそう言う。

「僕は同性愛者じゃありません。ただの友達ですってば!」

「ほー」

 アレンが必死に否定するが、クロスは信じて無いように呟く。

「もう行きます。さようなら!」

 アレンはこの場でクロスを説得する事は諦め、そう言って病院を後にした。





 ラビは約3週間前にアレンが勤める病院に肺炎で入院してきた患者。
 スッキリとした精悍な顔立ちをしていて格好良く、おまけに人当たりも良くて一気に病院の看護士達から注目の的になった。
 そんなラビの担当医になったアレンはなぜかラビに冗談のような告白をされ、それはラビが退院するまで続けられた。
 そして入院間近のある日、アレンはラビから『面白いから』と言われて1冊の本を借りた。

『次にまた診察に来た時に返してもらえればいいからさ』

『けど、僕あまり本読んだりする時間無いから遅くなりますし。いいですよ』

 アレンがそう苦笑して本を返そうとすると、ラビは『じゃあさ…』と小さく呟き、首を傾げるアレンに言った。

『俺と友達にならないさ?』

 ラビは人当たりが良くて人懐っこくて、余り友達がいないアレンからしたらラビが友達なってくれたら純粋に嬉しいなと思った。
 だから、本の貸し借りから始まる関係に魅力を感じてその申し出を受けた。
 そして、ラビが言っていた告白はやっぱり冗談だったのだなと納得した。
 ラビは近くの図書館で司書をしていて、本に対する知識は相当なモノだった。
 ラビの話を聞くのは楽しくて、アレンはラビが退院してから殆ど3日に1度の割合で会うようになっていた。










「アレン」

 待ち合わせの場所に来て目的の相手を見つけようとキョロキョロと周りを見回していたアレンは、自分の名前が呼ばれたのに気付いて声のした方へと振り向いた。
 その途端目に飛び込んでくるのは、鮮やかな紅。

「ラビ、お待たせしました」

「全然待ってないさ。俺の方こそ遅くなるんじゃないかって急いで…」

「脈拍は正常で肌が少し冷たいです。待たせちゃったみたいですね」

 ヘラッて笑って言いかけたラビの手首を掴んだアレンは、そう言って小さく苦笑する。

「お詫びに今日は僕が奢りますよ。何食べたいですか?」

「おっ、奢ってもらわなくてもいいさ」

 嘘がバレた事が恥ずかしいのか、ラビが少し顔を赤くしながらそう言う。

「ダメです。いつも割り勘だって言ってるのにラビの方が多く払ってるでしょ。だから、たまには僕に奢らせて下さい」

 ラビの手首を離して鞄を抱え直しながら、アレンは「それに僕の方が高給取りですよ」と言って微笑む。
 得意そうなアレンの笑顔にラビは観念したように「それじゃあ偶にはお言葉に甘えるさ」と言って微笑んだ。










 結局2人はラビの希望で食べ放題の焼肉店に入った。

「当店はバイキング形式で自分で焼きたい物を持ってくるようになっています。時間までたっぷりお楽しみ下さい。ソフトドリンク以外のお飲み物は食べ放題の料金とは別になっていますがいかが致しましょう?」

「あ、じゃあ俺はビール中ジョッキで」

「僕はグレープフルーツの酎ハイを」

 ラビに続けてアレンがそう言った途端、店員の笑顔が微かに固まり、疑うような目でアレンを見る。
 その店員の態度をラビは少しどうかと思ったが、アレンは冷静に持っていた免許証を店員に見せる。

「未成年じゃないですから。何だったら勤務先に連絡してもいいですよ?」

「し、失礼しました!ご注文は焼き肉食べ放題2時間2人分、ビール中ジョッキ、グレープフルーツの酎ハイがお一つずつですね」

 アレンの免許証を見た途端店員は顔を真っ赤にして慌ててメニューを復唱して奥の方へと走って行ってしまった。

「何か、微妙な店員だったさ」

「僕がお酒頼むと大概の店員さんはあんな感じですよ。本当に病院まで電話掛けた店もありますよ」

 アレンは免許証を鞄にしまいながら困ったように微笑む。
 医者であるアレンは病院で眼鏡を掛けてスーツを着ている状態でも軽く5歳はサバが読めそうな位幼い顔立ちをしている。
 しかもプライベートや勤労後は眼鏡を外してラフな格好をしているため更に学生にしか見えなくなる。

「その店員、最後凄い謝ったさ?」

「大変失礼な事をしてしまい本当に申し訳御座いませんでした。これは当店からのお詫びの品なのでどうかお受け取り下さい。って、そのお店で一番高いお土産貰っちゃいました。逆に店員さんに顔を覚えられて、行く度にペコペコされちゃったりしますけどね」

「へ〜。そう言えばアレンって何で仕事だと眼鏡掛けてるのに今は外しちゃってるんさ?」

 以前から不思議に思っていた事を、ラビは何となく聞いてみる。

「伊達ですもん。病院では少しでも大人っぽく見えるようにしてるんですけど、私服だと意味が無くて」

 ラビの疑問にアレンは苦笑しながら答える。

「なる程な。それじゃあそろそろ肉とか取ってくるか」

「はい」














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