鳳長太郎
□恋愛ごっこ
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キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴ったのを確認して、私は教室を飛び出す。
たまたま私の横を通り掛かった担任の先生が大声で「廊下を走るんじゃない!」なんて注意をしてきたが、もうそんなのどうでもいい。
私が今話したいのはただ一人。鳳先生だ。
鳳先生は音楽科の先生であり、私の恋人。
「はぁっ、はぁっ」
息を切らしながらも、私はお弁当を抱え、ひたすら走った。
そして、やっと先生を見つけた。
「先生ーーっ!」
大声で名前を呼ぶと、振り返って微笑む。
「おはよう。今日も元気だね」
「おかげさまで。……えーと、あれ?今日は一人?」
私がそう聞いたのは、先生のまわりには普段、女生徒が絶えないからだ。
「そうだよ」
先生が一人なのは珍しい。
かなりラッキーだ。
「よしっ!…先生、お弁当、一緒に食べよ!」
「うん、いいよ」
そう言ってベンチに腰掛け、弁当の包みを開く。
「…」
「…どうしたの?」
考え事をしていた私を心配したのか先生は顔を覗き込んできたので、私は頬を赤くし、少し躊躇いながらも言った。
「…先生、私のこと好き?」
「…え?」
先生は少し驚いたような顔をしたが、すぐにニコッと笑って、
「うん、好きだよ。…素直だし、こんなに純粋で、可愛いもんね」
と、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「…じゃあさ」
「何?」
「…私と結婚して?」
私は思いきって先生に言ってみる。
すると先生は、
「…今は無理かな、俺、一応先生だしね。付き合ってるのだって、バレたらどうなるか分からないし」
と言い、その後に「ごめんね?」と一言付け足し、苦笑いした。
「だよね…」
「…でも、」
「?」
「……おっと。…この先の言葉は、キミが卒業してから言ってあげる」
そう言い終わると、先生はいつものようにまたにっこり笑って、お弁当を食べ始めた。
「先生のケチ」
「何とでも言って良いよ」
先生と生徒って関係が私達を阻む。
いつだって本気なのに、
まるで恋愛ごっこをしてるみたいで
…少し、もどかしい。
end.
2009.05.28