ゆめ

□Call&Call
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枕元に振動が伝わった。携帯電話は音こそ立てはしないが、目映く赤色に点灯し、振るえた。書類整理ばかり続いて体が重かったが、眠りを妨げられたまま何もしないで終われない。寧ろ、この目障りな発光振動体の所為で今すぐには寝付けない。怒鳴りつけてやるか、そのうち身元を調べて消してやるか。上体だけを起こしディスプレイを覗くことなくペアボタンを押した。

「こんばんは、ボス」
「何のつもりだ」
「標的が姿見せるまでにまだ30分程あるのでお話をと」

電話が発する声は聞き覚えのある新米幹部の女だった。どこまでが本気なのか。ベッドサイドの時計を手に取り文字盤を覗く。三時十九分。デスクワークを終えたのは三時丁度だというのに。思考を巡らせれば巡らせる程、苛立ちが募る。

「おいカス女、今何時だ」
「三時二十分です」
「そうだ。俺が仕事終えたのは三時だ」
「それで?」
「時間を弁えろ。俺は疲れてる、寝かせろカス」
「えー」
「るせえ切るぞ」
「あ!待ってください!」


耳元から離しかけた電話を再び戻す。しかし女は何やらぶつぶつと呟き、何も言おうとはしない。苛立ちから自然に電話を持つ手に力がこもる。

「用があるのかねえのか」
「あああ、あります!」
「ならさっさとしろ」
「あの、モーニングコールに持ち越していいですか?」
「はあ?」
「朝、わたしが電話してボスを起こしてあげます」
「いるかドカス」

相変わらず女の声量はでかい。電話と耳は数センチ離して聞いてやると、それでも聞こえた意味の理解できない節介。断ってやれば間の抜けた声で返事をされた。

「もういいです。楽しみにしていてくださいねー!」
「…てめえ!」

ブツリと短いノイズがして無機質な音が続いた。ディスプレイに目を向けると、表示された通話時間はもう止まっていた。勝手に切られたことにまた腹が立ったが、これで寝れると電話を放った。時刻は三時三十四分。遅くはなったが俺は再びベッドへと体を沈めた。



朝、俺は誰に眠りを妨げられるでもなく目覚められた。あの女からの電話はなかった。電話を取りディスプレイに映された時刻をみる。十一時二分。寝過ぎた。乱れた髪をかきあげる。しかし今日自分には任務もなく、デスクワークも軽かったことを思い出し、起こした体をもう一度純白のシーツに預けた。

なかなか眠れない。二度寝でもしてやろうかと考えたが、寝付くことができない。仕方なく二度寝を諦めようにも、する事がなく手持ち無沙汰だった。近くにあるのは携帯電話だけだ。何気なく開いたそれの着信履歴を覗く。

こちらからかけてやろうか。

ふとそんな考えが浮かんだ。よくよく考えれば馬鹿な話だが、もしかすると俺は過度な仕事と女の馬鹿馬鹿しさにおかしくなっているのかもしれない。そうだ。そうに違いない。もう指はボタンを押し、ディスプレイは「呼び出し中」を表示している。出なかったら殴ってやろう。出たら散々文句を散らしてやる。





Call&Call




「…もしもし?ボス、わたし今起きて…」
「遅ぇ、アホ女が」
「へへへ、でもボスからのモーニングコール嬉しいです」
「ふざけんな、もう朝は終わってる」
「じゃあヌーンコールですか」
「かっ消してやる」
「それはちょっと…」
「………」
「ボス、おはようございます」








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朔舞さんへ^^
リクエストありがとうございます。

20090408



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