「ベルくん、」 「なに」 「何みてんの?」 談話室の扉を開くと、ソファにはひとり、ベルくんがいた。ベルくんひとりだけ。今日はルッスーリアはフランス、マーモンはベルギーまで任務に行っている。スクアーロも出てるだから静かだけど、予定通りなら二時間後に戻るらしい。さてオフなベルくんはというと、談話室のソファの上でクッションを抱きしめ、テーブルに山積みのDVDに夢中になっている。思わず暇人、と口に出しそうになったが、自分も暇だからここに来たことを思い出して声にはしなかった。 「何のDVD?」 「これ」 あたしはベルくんの隣に腰掛けた。ベルくんはDVDの山から一番上の一枚を拾いあげてこちらにひゅっと投げた。受け取ったそのDVDのタイトルを覗く。 「……えー」 「しし、かっけーだろ、暴れん坊。将軍なんだぜ」 「知ってるよ。日本人はみんな知ってるからね」 「おまえみたことある?」 「ないかも」 「うっわ、日本人のくせに」 こっちからしたらイタリア人の趣味がわからない。何故いきなり時代劇。典型的な日本ファンだ。侍とかに目覚めたら面白いかもしれない。「ティアラ?あー、あれやめた。王子今日から兜」とか言って武器が苦無みたいな。 「黄門様もあるんだ」 「おれ、それ一番すき」 「あたしも黄門様なら見たことあるよ」 「水戸のじいさん超つえーよな」 「自分は戦わないのに最強だよね」 「ボスじゃん。ボスは超戦うけどな」 お互い黄門様なボスを想像してしまった。ぎゃはぎゃはしししし。笑いすぎてお腹が痛い。 「絶対"もういいでしょう"なんて言わない」 「"根絶やしにしろ"とかだよな。あと変態とオカマが助と角な」 「あー、それはリアルかも!んじゃスクアーロはー…」 「悪代官でいんじゃね」 さっき入れ替えた黄門様のDVDの中でちょうど悪代官が「お主も悪よのう」をやってたから、二回目の爆笑をしてしまった。再びお腹が痛い。 「じゃ、あたしたち誰役する?」 「おれが弥七でおまえがお銀な」 「あの忍者とくノ一?」 「そ。なんか暗殺部隊っぽいし」 「そーかもね」 「でもお銀はお色気シーンあんだぜ、風呂とか入ってんの」 そう言ったベルくんは壁に掛かっているダーツボードにナイフを投げながら、ししし、と笑っている。顔に熱が集中してしまったあたしは、熱くなった頬に両手でぺたっと押さえた。 「ベルくん、変態ー」 「別に誰にも見せねーし。むしろおれだけ?おまえはおれんだし」 「…ベルくん、やっぱすき」 「おれも、すき」 手にしていたナイフをダーツボードに預けて、ベルくんはあたしの頭を撫でてくれた。へへ、久しぶりにベルくんが優しい。バカップル?知ってますから。任務ばっかりだとお互いテンションもおかしくなりますよ、ええ。 「あたし、黄門様の命令とか後回しにしちゃうかも」 「おれも悪代官とかシカトだし、ししし」 「あはは、スクアーロ無視!」 「ゔお゙ぉい!!散々入りにくい空気に作っといてなんだてめえら!」 がばん!みたいなすごい音と共にドアが蹴り開けられて馬鹿でかい声が聞こえた。ち、スクアーロだ。 「なに」 「まじで、なに」 「さっき報告書提出したときにベルよんでこいって言われてなあ」 「あっそ」 「てかスクアーロいつからいたわけ?」 「水戸のじいさんのとこからだぁ」 「わー、盗み聞き!」 「そんなあたしたちの時間が気になるか変態ー」 ピッ、とベルくんがDVDの電源を消した。そのままスクアーロの鳩尾に膝蹴りを食らわして逃げたベルくんを追う。長い銀髪を引っ張ってから。 「ゔお゙ぉいクソガキ共!三枚におろすぞぉ!!」 「ししし、悪代官ごときに捕まんねえし」 「あたしたち忍だしね」 「…ゔお゙、ぉい……」 091221 |
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