拍手御礼
□笑顔の半分
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「ん…っ……」
抱きしめられて、頭を抱えられるように口づけされる。抵抗しようにも両腕ごと抱かれているためにそれも出来ず。
悔しい事に、年下とは思えない力の差だった。
「……っ、う…」
水の音がする。それは深く絡ませて出るものではなく、唇を舐めて柔らかく吸い付いての音であり。もちろん、相手がわざと出していて。聞いているこっちを居た堪れない気持ちにさせる。
「…や、……めろっ」
首を振り、どうにか逃れて口にした言葉は、自分でも驚くほど力が無かった。
顎を掴まれ戻されれば、再びきつく抱かれて。その勢いで押し倒されるとざわりと焦りが生まれてきた。
「……花菱っ…!」
約束したはずだった。
『卒業するまで我慢する』
無防備な首に吸い付かれて、布越しに背中を摩られる。触れてくる烈火の体温が高いことに気がついた。
「……水鏡…」
ため息のような声にも熱がこもってきて。水鏡は、ただひたすらに、これは非常に良くないという事しか考えられなくなった。
ふと腕の力が緩み、解かれた。勢いよく突っ張り、烈火と距離を取った。
「花菱!」
「……」
無言でいる彼を仰ぎ見る形だったが、それは一先ず置いておくことにした。
「おまえ…っ、約束はどうした!」
印象的な黒い瞳と視線が合えば、彼は瞬きを数回した。無表情のようでも、何か言いたげなそれに、水鏡は声の調子を落としゆっくりと言った。
「…もう、…破るのか…」
「破んねぇよ?」
「じゃあ、この状況は何だっ…」
「何もしてないじゃん」
これがか?と思わず口に出そうだったが、とりあえずは彼の言い分を聞いてみてからにしようと、開いた口を閉じた。
「キスするんだって、舌入れてねぇし。脱がしてもない」
「……そっ…」
「破る気なら、もうとっくにもらってるよ。水鏡」
と苦笑した。
その言葉を聞いて、その通りだと思う半面。破る気が無いなら尚更。
「ここまでして…、辛いのはお前だろう…っ」
何の感情だか分からなかったが、とても苦しかった。この馬鹿な生徒は、考えているようで全く何も考えていなく。自分の気持ちさえ抑えきれていない。その証拠に、いつもなら花菱と呼べば烈火と言えとしつこいくらい聞かされるのに、それが無い。
このまっすぐな気持ちに答えることが出来ずにいて、更にあからさまな拒否も出来ない自分の弱みを知った上で、甘えてくる。
もちろん。辛いのは自分と、分かっていながら。
烈火は、水鏡へ笑顔を向けた。
「だと思うなら、早く俺のものになって」
END.
20110325