拍手御礼
□2019年クリスマス
1ページ/1ページ
昔からある積み上げパズルゲームは今現在でも進化を続けていて、世界中にいるプレイヤー達とリアルタイムで対戦することだって出来る。目の前にいる人がプレイしている画面では、とんでもない速さで落ちていくブロックが計算された動きで瞬く間に消えていく。
「それ、どこ見て操作してんの?」
一応疑問形にしてみたが、返事なんて返ってこなくても気にしなかった。というのも、鮮やかな手前を見ているのが気持ちよく、むしろ邪魔だったかなと考えたくらいだからだ。
しばらくしてリザルト画面になってから、後ろから覗き込むように顔を近づけるとようやくその人の口が開いた。
「どこって、画面」
「の、どこって聞いたんだけど?」
小憎らしい言い方に近くにあった耳朶を噛んだら迷わず飛んできた肘を、受け止める代わりに頬にキスをした。
「水鏡、それだけは上手いよね」
「だけは余計だ」
彼は特に嫌がりはしなかったが、噛んだ耳が少し赤かったことに満足した。
ゲーム機をテーブルに置くと、その横にあったマグカップに手を伸ばし口をつける。ふわりと香ってくるコーヒーの匂いも水鏡の一部に感じて無意識に息を深く吸ってしまう。自分も大概だなぁと苦笑いしながら、綺麗な髪の毛を弄んでいた。
「水鏡って不器用だけど器用で不器用だよね」
「何を言っているのか分からないが、器用なのはお前だろ。さっきから何してる」
「髪の毛編んでる」
ゲームに集中しているのをいい事に、無防備な髪の毛をひたすら愛でていた。枝毛も探してみたが、見つからずに艶やかで滑らかなそれを編み込み始めていたのだ。
水鏡がそれに触ろうと手を上げたが、まだダメと両手が塞がっているので顔面で止めれば、頬をつねられる。
「なにがまだだよ、完成とかあるのかそれ」
「あるよ、あとちょっと」
ただの暇つぶしで始めたわけじゃ無い。最初はたくさん触れるからラッキーとは思ったが、ふと思い立った事があり完成までやり遂げたかった。
彼は、「ふーん」とスマホを取り出して今度はアプリゲームを開いた。町を開拓していくゲームだろうか、黒いスーツを着た怪しい男と取引を始めていた。
しばらくして、どこからか手に入れた金で作った駅が完成した頃。手元の編み込みも完成した。
「できたー」
「……よかったな」
「ねえ、できたよ。みてみて」
触って確かめてみてよと、言うと大層面倒臭そうに頭を確かめた。
「よく出来るな、こんなの」
「俺が器用なのは水鏡の為でもあるわけよ」
「あー、そう」
と頭から毛先にかけて編んである毛をたどっていくと、水鏡の手が止まった。
「これ、なに?」
髪の毛の感触とは違うもの。
なにか、滑るようなザラついているようなそれを指でなぞる。
「なんだと思う?毛先まで行けばわかるかもよ」
「鏡は?」
「カンニング良くない」
冗談交じりに言えばムッとした顔で、素直に何かを当てようとする水鏡が可愛くて仕方がなかった。
年上なのに可愛くて可愛くて、愛しくて。
……
「え…?」
「ねえ、水鏡?」
水鏡が何かに気がついて声を上げると今の今まで熱心に編んでいた髪の毛を躊躇いなく解き、それを水鏡を背中から抱える格好で目の前に出した。
「メリークリスマス、でしょ?」
腕の中で固まってしまった人にもう一度呼びかけると、その体が反転して綺麗な顔が目の前に見えた。近くて少し驚きながらも微笑めば、なぜか彼は眉根を寄せた。
「それはずるいんじゃないか」
「え、なんで?」
「お前だけだと思うなよ」
「……それ、って」
言いかければ、水鏡の頭が肩に落ちてきた。革紐に控えめなシルバーの装飾、中心には赤い小さな石が光っているネックレスを首に付けてやりながら嫌に心臓がばくばくと音を立てていた。
2019年メリークリスマス