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□その道の始まり
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土曜日のこと。
午前中の授業も終わり、下校しようと下駄箱で靴に履き替えていた時だった。
「水鏡君」
女子生徒に声を掛けられ振り向くと、彼女には見覚えがあった。
水鏡は一瞬考えてから、あぁ、と思い出す。確か、同じクラスの……。
「あの……」
なぜか口ごもるその表情は、緊張しているようだった。
「何?」
先を促すように聞くと、焦りながら顔を上げて水鏡を見る。
「あの……一緒に、帰ってもいい?」
「……」
「先生、腹減った」
「このページが終わったら今日は帰してやるって言ってるだろ」
「もう、腹減りすぎて解けねぇ……」
関係ありそうでそうでもない台詞を言いつつ、椅子から落ちそうなほど仰け反って天井を見た。
昼食も抜きで問題を解かされている自分が可哀想で、そんな事をさせる教師に鬼だの何だの呟くが、追試をことごとく無視し続けていた自分が悪いとは少しも思っていない烈火だった。
「あぁ、いいなぁ。みんな帰ってく」
窓から見える校庭に目を向ける。きっとこれから出かけるのであろう楽しそうな生徒たちが羨ましくて仕方が無い。
「ほらほら、ぼーっとすんなよ。するだけ飯が遠のくぞ」
教師の声で再び教科書へ目を向けようとした烈火だったが、校舎から出てきた人物を見つけた瞬間に言葉を失った。
「……は…?」
見知っている彼一人で出てきたのなら驚きも文句も無い。しかし。
「……ふざけんな」
隣に並んで歩いているのは、見間違えようも無く女子生徒だった。
話をしていると家が意外にも近い事を知った。
ところでなぜこの女子生徒は自分の家を知っているのだろう。という疑問も感じた。
「それでねっ」
教室でもたまに話しかけてくる程度で、名前を思い出すのに一瞬時間が掛かったくらいなのだ。次々と話題が出てくる分沈黙は無いが、妙に変な雰囲気だった。
そうしているうちに家も近づいてきて、ふいに女子生徒が立ち止まる。
不思議に思い、声を掛けるために彼女を振り向くと。
「……っ!」
「あのね、水鏡君……」
水鏡の視線は、うつむいたままの彼女ではなかった。
それを通り越した後方には、烈火がいた。
「実は、私」
長い時間に思った。
無表情で見つめてくる烈火から視線を外せない。
「水鏡君が好きなのっ」
「……」
「だからもし良かったら、私と付き合ってくれませんか」
懸命に搾り出した台詞と同時に彼女が顔を上げて水鏡を見るが、当の本人はその横を過ぎて向こう側にいる人物を見ていた。
「……あの、水鏡君?」
「……え…?」
「どう、かな?」
「あぁ……」
不安そうにする女子生徒を見た後、もう一度烈火に視線を戻す。
彼は、笑っていた。