ABYSS-1

□『CrossOver』第二章
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【日溜まりの花】








あの頃の俺は気が付かなかった。
否、気が付けなかった。
彼の瞳に宿る、その感情に…。
怒り。
悲しみ。
殺意。
そんな感情のない混ぜにした、瞳。
嗚呼、彼はいつも、こんな瞳で俺を見ていたのか…。
そう思うと、心が苦しくなった…。

『大丈夫か、ルーク』

大犬の姿をとったローレライは何処までも優しく、俺を気遣う。

(…大丈夫…)

そう、大丈夫。
これは俺が選んだ事。
全てをやり直すと言う事は…今まで築いてきた繋がりを、全て解くという事。

(もう一度…始めから)

心に浮かんできたのはあの紅色…。
大丈夫、頑張れる。

(だってまだ…出会ってもいない…)

ローレライの綺麗な毛並みを少し強く掴む。

「どうしたルーク?恐くはないぞ?以前から居ただろう、ガイだ」

うん、解っています。
生まれてからずっと、傍にいてくれたから…。
たとえ、復讐の為でも。

「………ガイ……?」

漸く、声に出る。
呼べた、その名前。
ひどく擦れ、震えているけど…。
呼べた。
すると、ガイは俺の前に膝を折り、手を取り、あの笑顔で笑った。

「はい、ルーク様」

擦れた声が、震える手が、哀れに映ったのだろうか。
でも、まだ、今は…、

(それで良い)

少しだけ、ほんの少しだけ、その瞳の光が柔らかくなったから。

「ガイ!」

名前を呼ぼう。
君が俺を見てくれるまで。
笑って。

「ガイ!」

呼ぶと手を握り返してくれた。
今は、まだ、
それだけで良い。


・ ・ ・ ・


今日は疲れただろうと、早めの夕食を取り、休む事になった。
部屋に戻ると本日二回目ではあるが、またもやベッドに突っ伏した。

「疲れた…」

この程度の疲れは、旅をしていた時には感じなかったものだ。
つまり、身体がまだ、出来上がっていないのだろう。
子供、十歳の子供の身体。
以前の歩くこともままならなかった自分に比べれば格段にましだが…今回はまたその重要さが違う。
自分には、やらなくてはいけない事があるのだ。
弱いままでは、駄目なんだ…。

「強くならなきゃ…」

今までおとなしくベッドの横にいたローレライは、ふと、笑った。

「ルークは強い…」

思いもよらなかった事を言われた。

「戦闘能力はあの時のままだ、おそらく基礎体力の問題だろう、何といってもその身体はまだ出来て何日も経っていないからな」

事もなげにそんな事を言われた。
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